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今年最後のヒグラシ
金曜日の放課後、誰もいない図書室で委員会の仕事をするこの時間が、私は大好きだった。
理由なんて簡単。
同じ委員会の好きな男子と二人きりでいられるから。
「相変わらず暇だな」
「暇だからこの委員会にしたくせに」
「金曜日の放課後が暇で気楽だからな。1年の時それ知ったから、お前だって今年も図書委員になったんだろ?」
「……まあね」
当たり障りのない会話でも、喜んでいる自分がいる。けれど、素直に今の会話を喜べない自分もいる。
ただ並んで歩いたり、隣で話したり、笑ったりするだけで満たされていたはずなのに。なんでもよかったはずなのに、いつからその声を自分だけに向けてほしいと、視界に自分だけを入れてほしいと思うようになったのだろう。
彼の一番になりたくて、彼に見合う女子になりたくて。本来なら教室の端で静かにしているタイプの私が、もっと近づきたいという理由で口調もノリも少しだけ男っぽくして、私はサバサバ系ですよって。他の女子みたいにねちっこくないよって。だから以前より話しかけやすいって思われたくて自分を必死に変えた。
極端に私が変わるもんだから、幼馴染である彼はとても驚いていたけど、長いことやっていれば嘘の私にも慣れていって、次第に「変じゃね?」と言われなくなった。
でも、それも無意味だったんだけど。
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