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1-2 健吾
そんな怒涛の1日も無事に終わり、放課後を告げるチャイムの音とともに野球部のバッグを肩にかけた健吾が4組に現れた。教室の後ろの入り口から顔をのぞかせて「まこと」と声をかけてくる。
「4組どうだった? うまくやれそうか?」
8組の健吾が4組まで来ちゃったら部室へは随分遠回りになるのに、心配してわざわざ様子を見に来てくれたのだろう。幼馴染の彼に「大丈夫だよ。のんちゃんもいたから」と答えると、健吾は「それならよかった」と安心したように笑顔を見せた。
が。
私の右隣を確認するや否や、その顔から笑顔がすこんと抜け落ちた。ゴミでも見るような目をして四月くんの後頭部をじろじろと眺めまわしてから、私のことまで睨みつけてくる。
エッ・・・・?? なんで!? 私はひとつも悪くないのにっ。
私だって好きでこの席に座っているわけじゃないのだ。オッパイの隣だなんて、やめれるものなら今すぐやめたい。不可抗力って言葉を知らんのか!
目力を駆使して己の無実を訴えてみるが健吾にそんなものは通用しない。悪いったら悪いのだ。健吾を怒らせた私が悪いのである。
さっきまで感じてた胸のほっこりはどこへやら。ムカムカと腹が立ってきた。健吾ってこーゆうワケわかんないことで八つ当たりみたいに怒ってくることがままあるのだ。情に厚く面倒見がいい反面、感情の起伏が激しくて怒りっぽいのが健吾の欠点なのである。
と、健吾が口パクをはじめた。
(なになに?ーーーーせき・・・かわれ・・・!? そんなのムリっ)
その時。己の背後に漂うただならぬ気配を感じ取ったのだろうか。四月くんがぐるりと首をまわして健吾を見た。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
しい~~~~ん。
視線を合わせたまま沈黙する男ふたり。
私がハラハラと見守る中、わざとらしい愛想笑いを浮かべた四月くんが健吾に向かって口をひらいた。
「俺に何か文句でも?」
「ーーーアンタ例のオッパイだろ」
「だったらなんなの」
コワモテでガタイのいい健吾にすごまれると結構怖いハズなのだが、四月くんはぴくりとも怯まない。飄々と言い返してくる彼に健吾がイライラと顔をひきつらせた。
「おまえ、まことに妙なコトしたら絶対に許さ・・・・」
「なんもしねーよ。俺、変態かもしんないけど犯罪者じゃないから」
「変態は十分犯罪予備軍だ!!」
四月くんがせせら笑う。
「それがなんだよ。予備軍も変態も何もしなきゃ一般人の括りだぜ」
あわわわわ・・・・と私は狼狽えた。
今わかった。ハッキリとわかった。この二人はうまくいかない。絶っっ対に・・・・!
「四月くんの言う通りだよ。今のは健吾が悪い」
私が割って入ると、健吾は一瞬、ポカンとしてこちらをみつめた。
「エ? おまえ、今なんて・・・?」
「健吾が悪いって言ったの。四月くんに謝りなよ」
「ーーーハアアアア!??? 謝れ?? 俺が!? コイツに!?」
「うん」
わたしが首を縦に振るのを見て、顔を真っ赤にした健吾がワナワナと震える。
「なんでだよ!! どーしてこんなヤツの肩もつんだよッ!!」
「いやいや、別に肩待つとかじゃないし」
「ウソつけ、今コイツのこと庇ったじゃねーか!! いったいオマエはどっちの味方なんだよ!!」
「えええ・・・!? だからあ。テキとか味方とかじゃなく、私はごくまっとうな一般常識をーーー」
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