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「そーいえば、慎一郎さん。なんでそんなにかき氷食べたかったんですか?」
そりゃ、夏といえばかき氷だけど、なんでそんなにこだわったのか、理由を知りたいじゃん?
「ほら、働いてると、夏らしいことをろくにしないまま、気がついたら夏が終わってる、ってパターンが多いだろ?」
私たちの職場はスーパーマーケット。
冷やし中華の売り場の広さで夏の訪れを感じ、おでん材の売り場を広げて、はじめて夏の終わりが近づいたことに気付く、みたいなとこがある。
「あー……たしかに、そうですね」
黒縁眼鏡の奥にある瞳を優しく細めて、彼は言った。
「今年は巴と付き合いはじめて最初の夏だから、夏が終わる前に、夏らしいことを一緒にしたかったんだ」
……ぐはっ。
なんか今、トキメキどストレートな豪速球を、心臓めがけて投げこまれた気がする。
「それで……かき氷?」
「それで、かき氷」
……うん、知ってた。
自称女心に疎くて鈍感な私の彼氏は、実は天然タラシだって。
そんでもって、胸キュン通り越して心臓止まりそうな殺し文句を、平然と口にするんだよね。
……んもう!
このままどぎまぎさせられっぱなしは、悔しいなあ。
「じゃあ、来年は水着でプールなんていかがですか?」
私はにっこり微笑んで、いたずらっぽくウインクする。
「……考えておく」
……ハイ!
貴重な照れ顔いただきましたぁーっ!!
ささやかな仕返しで満足した私は、ミルク味の氷を口に運ぶ。
夏の終わり。
太陽光を反射して、きらきらと輝く海。
好きな人と一緒に食べるかき氷は、ひときわおいしかった。
【おしまい】
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