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遊歩道というより整備された森だ。歩きながら俺はそんな感想を抱く。
左右に整然と並んだ木々は鬱蒼と茂り、駐車場より随分涼しい。
そもそもこの道がどこに向かっているのかもわからない。どうせ大した場所じゃないんだ、せいぜいどこかのバーベキュー場とか広場とか、そんなところだろう。
オレンジ色の灯りを放つ提灯は俺を手招く様に続いている。
その時、どこかからヒョロヒョロと笛の音が聴こえてきた。
ゆるくカーブした道を進むと、音も道幅も更に大きくなった。遠くに出店らしき屋台の看板もぽつぽつと見えている。
「本当にこんな所で祭りやってたんだな……」
そう呟いた俺に、木陰に立っていた男が驚いた様子で声をかけた。
「アンタ、こんな所で何してるんだ?」
知り合いかと警戒したが、紺色の着流しを着て狐の面をした男など見たことがないし、声にも聞き覚えはない。歳はそこまで離れていないようだが、面を被っているからか異様な雰囲気の男だ。
俺はあまり関わり合いにならないよう、営業スマイルで対応する。
「いやぁ、スイマセン。提灯が見えたんで祭りでもやってるのかと思って。もしかして子供クラブの集まりとかですか?俺は不審な者じゃ……」
「提灯が見えたのか」狐面の男は俺の話を遮り、屋台のほうを振り返った。「あの子が呼んだんだな」
「あの子?」
「この祭りの主催者みたいなものだ。要するにアンタは、色々なことを忘れてしまったからこの祭りに呼ばれたんだ」
主催者?忘れた?聞けば聞くほど混乱してくる。
この男に何を聞いても無駄だと判断した俺は、なけなしの愛想笑いを浮かべた。
「あ〜……じゃあ俺、仕事に戻りますんで。その子によろしく言っておいてください」
そう言って来た道を振り返る。
しかし、さっき通ってきたはずの遊歩道は消えていた。
巨大な木々と苔むした岩が、まるで何年も昔からあったように目の前に広がっているだけだ。呆然と佇む俺に、狐面の男が告げる。
「申し訳ないが、戻れない。代わりと言っては何だが、少し屋台を見ていったらどうだ?もしかすると何か思い出せるかもしれないぞ」
それともこの森をかき分けて帰るかい?
そう聞かれても、なんと答えていいかわからない。気がつくと俺はふらふらと屋台の方へ歩き出していた。
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