0人が本棚に入れています
本棚に追加
夜。私は部屋にこもってスマホをいじっていた。
朝から降っていた雨は夜になった今も降り続けている。天気予報では明日も雨らしい。また今日みたいに水をかけられると思うと学校を休みたくなる。でも、母は許してくれないだろう。
不安な気持ちを拭うようにして私はSNSを覗いた。
いじめられてから、私は『アリサーチ』にハマっている。
アリサーチというのは私が勝手に作った造語だ。ラテン語で『アリ』は『他』を指す。すなわち、『他人』についての記述を探すのだ。エゴサーチの他人バージョンとでも言えばいいだろう。
クラスメイトの名前を打ち、引っかかったアカウントを辿ってサーチしていく。長年やっている私は鍵のついていないクラスメイトのアカウントIDを把握しているので、それを検索してアリサーチを行っている。
どうしてこんなことを行っているかと言われれば『精神安定』のためとでも言おうか。
みんなは確かに私のいじめを黙殺している。でもそれはただ単に権力に打ちひしがれただけで本人の意志は別であると信じたいのだ。
だからクラスメイトが投稿した内容を見て、みんなの本音を把握しているのだ。案の定、今日の食堂であった事件について何人かが金竜のことを非難していた。
表向きは金竜の言いなりだが、裏ではきちんと良心的でいる。それが知れただけで救われる。私の存在価値はまだあるのだと思える。
精神的に救われたことで余裕が出てきたのか、ふと朝宮のことを思い出した。
SNSの検索バーに『朝宮 春陽』と打って検索をかけた。すると一件の投稿が検索をかけたキーワードをまんま使っていた。
『春陽って、◯◯高校の朝宮 春陽?』
そう書かれた投稿は誰かへのメンション付きだった。返信相手を見ると『春陽@講演家朝宮陽一の娘』と書かれていた。そのアカウントをタップしてプロフィールを覗いた。
短く書かれたプロフィールの下には固定の投稿がされており、次のように書かれていた。
「朝宮 陽一が事故で亡くなりました。このアカウントも消去しようと思ったのですが、父が残したかった『笑顔の社会』の実現に向けて、娘である春陽が毎日元気の出る投稿をしていこうと思います。みなさま、よろしくお願いいたします」
私は思わず目を剥いた。朝宮の父親は講演家であり、今は故人らしい。
ネットで『朝宮 陽一』と調べると妻とのデート中に交通事故に遭って亡くなったと報じられていた。
思いもよらぬ朝宮の不遇の出来事を知り、私は全身から力が抜けたのを感じた。
何もやる気が起こらなくなったため、仕方なくスマホを閉じて寝ることにした。
最初のコメントを投稿しよう!