地の底から、あるいは地の上、咽び泣く

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「あぁ部下Aよ、ちょっと待て。定期報告ならもう不要だ」  部下Aは表情を変えずに返す。 「しかし定期的に報告するから定期報告なのであって、定期で報告しないと報告が定期でできずに報告が(とどこお)ります」 「いや何を言ってるのかよくわからないけどさ……」 「何かお悩みですか、魔王様」  なかなか鋭いと魔王は思う。そういった意味では部下Aは非常に優秀なのだ。 「まぁちょっと考え事が、さ」 「よろしければ相談に乗りますよ」  他人に話して少し整理したい気持ちもあった魔王は嬉々(きき)として話す。 「電車…… まぁ新幹線がイメージしやすいかな。あと映画館とかさ、座るじゃない?」 「座りますね」 「肘掛けって、左右どちらを使えばいいのかな、と」  魔王は先日お出かけした際に気になり、ずっと悩んでいた。  部下Aは表情を変えない。 「隣に人がいる時、ですか?」 「隣に人がいる時、です」  魔王は続ける。 「あと端の席じゃなくて両隣に人が座ってる想定です」 「難しい問題ですね」 「でしょ?」  部下Aは表情を変えない。  しかし話し出すと共感を得ているような気もしてきて、魔王はなんだか楽しくなってきた。
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