行き付けの喫茶店にて

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「…話は戻るけど、謁見した時の皇帝の様子について聞いても?」 「ええ、勿論。最初は淡々と昇進に対する祝いの言葉を貰いましたが、デュアリオンの話になった途端、妙に苛立って何処か焦っている印象を持ちました。シエンティアについても、本来はサニアスタの手元に在るべきなどと宣わっていましたし…」  そう答えたフォルクスも、短くなった煙草を灰皿の中で消し潰した。 「それと、これは単なる推測ですが…」  断りを入れつつも彼はそう切り出し、辺りを一瞥しながらテーブルに身を乗り出し、声を顰めた。 「…近頃、ランギーニは具合が優れないようです。専属医が頻繁に出入りしているらしく、妃達へのお通り頻度も減っていました」  その情報にヴォクシスは目の色を変えた。  秘匿されてはいるが帝国皇帝ランギーニは既に還暦を過ぎており、年齢的にはあり得なくはない。  世代交代が迫っていての一連の凶行という可能性も考えられなくはなかった。 「…もし仮にランギーニが斃れたとして、次の皇帝はソリオン殿…?」  眉を顰めつつ、ヴォクシスはもう一本煙草を取り出した。 「どうでしょうか…。立太子式を行っていないですし、何よりあちらには…」  椅子に座り直しつつ、フォルクスはまたライターを取りながら言葉を躊躇った。  皇帝になれるのはサニアスタ皇家の血筋であるのは言うまでも無いが、現在、皇家にはランギーニ唯一の子ソリオン皇子以外にもその資格を持つ者が存在する。 「………、二十一年前に連れ去られたギリウスの子、アクアス王子とイーシス王女か…」  また火を貰いつつ、ヴォクシスは煙と共に溜息を零した。  帝国に流れた王子と王女はギリウスの廃嫡に加え、当時、王国側の発した帰還命令に従わなかった事により王位継承権を失っている。  しかし、その身体にハインブリッツ王家の血が流れていることは変わらず、帝国ではセリカ皇女の子供達としてサニアスタ皇家の一員として事実上認められてしまっている状態にあった。  加えて、アクアス王子に関しては親譲りの見目の良さから民衆からの人気も上々との噂である。 「それって不味くない?なんで、もっと早くに言わなかったの?その三人の誰かが皇帝になってたら大惨事だよ?」  煙草を咥えて困ったように頭を搔きつつ、彼は呆れたように訊ねた。  もしも穏健派で知られるソリオン皇子が即位した後に革命を行った場合ですら、世間からの風当たりが気掛かりだというのに、万が一、皇子を差し置いてその二人のどちらかが新皇帝となった場合、革命を後押ししている王国は身内を襲撃したと悪評を付けられ兼ねない。 「確証は無いですし、話が決まってから気付いたので…。殿下の身柄については変わらないので様子を見ながら計画は進めるつもりでした。王国には迷惑は掛けませんよ」  あっけらかんと答えつつ、フォルクスは皿に残っていた冷めたフライドポテトを抓んだ。 「君って相当な度胸と根性あるね」 「生憎、思春期に敗戦奴隷になったもんで感覚可笑しいんですよ。腕の一本圧し折られたくらいじゃ滅気ません」  返ってきた嫌味にヴォクシスは灰を落としつつ苦笑い。  かなり根に持っていたらしい。 「あのぉ…、お話まだ掛かります?」  不意に聞こえた訊ねる声に、二人して我に返った。  手洗いの口実で席を外していたカルディナが、戸惑ったように小首を傾げていた。
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