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思念の揺籠
故郷の島に伝わる唄を口遊み、暮れゆく夕空を眺める。
伏せた瞼の向こうに浮かんだのは、亡き両親の笑顔だった。
「…父、母…っ…ごめんなさい…、…ごめんなさい…っ…」
詫びの言葉を漏らし、溢れる涙に膝を抱えて蹲った。
代々の先祖が隠し通してきた邪悪な存在を、世に明かしてしまった罪悪感に胸が押し潰されそうだった。
「…っ!…そんな強引なっ!」
「既に議会からの許可は出ております」
「ですが!」
「しつこいですよ?ハインブリッツ大佐」
「しかし中将!」
俄に近付いてきた騒々しい声に、涙を拭いながらもそっと顔を上げる。
間もなく開かれた扉の向こうには、見覚えのある参謀本部の将軍と複数の士官に押さえられる大佐の姿があった。
「ボルボス中将!待ってください!カルディナの身に何か遭ってからでは…!」
士官を振り払い、大佐は歩み寄る中将の行く手を阻む。
「事は急を要するのです。帝国に勘付かれる前に調べを終えねばなりません。シャンティス少佐、同行を願おう」
半ば大佐を無視し、中将は取り付く島もなくカルディナに迫った。
話の流れから何処に連れて行かれるかは察しがついた。
「拒否権は無いようですね…」
そっと立ち上がり、諦めたように呟きながら、中将の背後で拘束具を手に待つ士官に向けて両手を差し出す。
大佐は必死に従うなと叫んだが、抵抗の余地はなかった。
もう何がその身に起きようと、覚悟する時間は与えられた。腹を括るしかなかった。
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