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弱者の怒り
身体を縛られ、ゴウンゴウンと音を立てる機械に通されていくカルディナをガラス越しに見つめる。
クロスオルベ侯爵夫人シャンティスとの記憶の混同が確認されて早三日―――、眠りから目覚める度に現れるシャンティス夫人がカルディナの身体を支配する時間は徐々に伸び、代わりにカルディナでいる時間は短くなっていた。
軍は夫人からデュアリオンの情報を聞き出そうと躍起になっており、再度の思念の揺籠の機動を検討しているが、カルディナを傷付けることに勘付いた魂授結晶が融合を拒絶。
シャンティス夫人もデュアリオンの事を聞き出そうとする度、何かを隠すようにカルディナと入れ替わってしまう為、調査は暗礁に乗り上げ始めていた。
(カルディナが約束させたのはこういうことだったのか…)
思念の揺籠に入る直前、彼女が言い残したことを思い出し、止められなかったことを激しく後悔した。
このままではカルディナが、カルディナではなくなってしまうかも知れない―――。
その不安を抱きながらも何もできない己が歯痒かった。
「終わりましたよ。今のところ脳波の異常は見られません…」
検査技師と共に検査室から出て来たカルディナはこちらに軽く頭を下げたが、言葉を発してはくれなかった。
参謀本部勤めの王族という立場でありながら、強行的な軍を止められない己に怒っているのか―――。
身に起きている異常な現象に、今も怖い筈なのに気丈に振る舞っているのが見ていて辛かった。
「カルディナ…」
「病室に戻ります」
端的に答えて、それ以上は目も合わせてくれなかった。
「すっかり嫌われちゃったわね」
その声に振り返れば、アウラ医師の姿があった。
微かに煙草の匂いがする。
「難しい年頃なのもあるかも知れないわね…。根気強く見守るしかない。側にいてやんなさい」
そんなアドバイスを残し、アウラ医師は同僚と話すべく検査室に入っていった。
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