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カルディナの病室に戻った時、ヴォクシスは度肝を抜かれた。
個室の病室を埋め尽くさんばかりに書類と本が運び込まれており、それに埋もれるようにしてカルディナは大きな紙に複雑な計算式や図を書き込んでいた。
「凄まじいな…」
思わず呟いた声でこちらに気付いたのか、彼女は弾かれるように頭を上げた。
「ちょっと良いとこなんで待てます?」
彼が持ち寄ったものを指差しつつカルディナは訊ねた。
「待ちます」
端的に答えて、一旦外に出た。
看護師達の視線が痛かったが、娘に嫌われるのを思えば軽いものである。
暫くして、ドアを開いた病室には遣り切ったとばかりにすっきりした顔のカルディナが待っていた。
聞けば、見舞いに来たエクストレイン中尉が気晴らしにと飛行機愛好家達に向けた雑誌を持ってきたらしい。
その中に有名メーカーの最新式旅客機の分解図があり、それを見る内にセルシオンの宇宙探索用ボディのアイデアを閃いたらしい。
書類と本は学校から学友に頼んで借りて来て貰ったそうだ。
「で、完成したの?」
書類の片付けを手伝いつつ、興味半分で聞いてみた。
「計算上だけですけどね!退院出来たら実験始めたいです!」
キラキラした目で言う姿は以前のカルディナである。
取り戻した明るさに、彼はそっと微笑んだ。
「じゃあ退院の日取りが決まったら、第二格納庫の使用許可を取るとしようか。多少なら軍の経費も出るだろうし」
「マジすか⁉やった!」
万歳で喜ぶ様に思わず苦笑い。
入れ違いにはなってしまったが、エクストレイン兄妹と彼女の学友には心底、感謝である。
「ところで、これどうしたんです?」
片付けが済んだところで、ヴォクシスが持ってきた白い箱にカルディナは首を傾げた。
見た感じ、ケーキの箱である。
「古くからの知人と偶然街で会ってね。若い子に人気と聞いてさ。カルディナの口に合うと良いんだけど…」
そう開けられた箱の中にはベイクドチーズケーキが入っており、それを見た瞬間カルディナは硬直した。
―――おっと、これは外したか?
彼女の反応に緊張が走った。
「これって南通りの?」
「えっと…うん。そう」
思い返しつつ返答。
その瞬間、花が咲くようにカルディナは満面の笑みを浮かべた。
「むっちゃ食べたかったやつ!え、絶対並びましたよね⁉うわ、嬉しい!友達と行こうって言ってたんですよ!うわっ、最っ高!」
飛び跳ねて喜ぶ姿はまるで小動物である。
あまりにそれが可愛らしくて、彼は堪らず吹き出した。
「あ…、すみません…」
テンション爆上がりな自分を振り返り、カルディナは途端に恥ずかしくなった。
俄に赤くなる彼女に、ヴォクシスは深呼吸して優しく笑い掛けた。
「そんなに喜んでくれるなら、いくらでも買ってくるよ」
そんな一言と共に、跳ねて乱れた髪を撫でる。
その手の温もりの優しさに、カルディナは気恥ずかしそうにはにかんだ。
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