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クロスヴィッツ病院の裏には、ヴォクシスが三年程過ごした児童養護施設がある。
その建物は病院施設が出来るずっと前から存在しており、今では歴史的建造物として国からの指定管理をされている。
そして、そこで生活する子供達は今も引き継がれるクロスオルベ侯爵の意志の下、温かい環境で伸び伸びと暮らしていた。
「この建物まだあったのね。ヴィクターが知ったら喜ぶわ…、子供達も幸せそう…」
懐かしげに目を細めながら、シャンティス夫人は学校へと走っていく子供達の背を見つめる。
予め病院を通して訪ねることを連絡していた為、施設職員や子供達は顔を見ても軽い会釈だけである。
本当は久々に来たヴォクシスと話たがってはいるが、そこは後日に回してもらった。
「ごめんなさいね、我が儘を言ってしまって…」
そんな事情を察してか夫人は悲しげに微笑む。
その後、暫く施設の風景を楽しんだ夫人は、その裏手にある広場に来るやそこを一望できるベンチに腰掛けた。
芝地には草花が伸び、秋を彩っていた。
「そう言えば、まだお名前伺っていませんでしたね」
不意に合わさった視線にヴォクシスは苦笑い。
彼も名乗っていないことを忘れていた。
「失礼致しました。王国陸軍大佐ヴォクシス・ハインブリッツと申します」
「ハインブリッツ…ということは、もしかしてデリカナさんのご子孫?」
「血縁的にはですがね…」
頭を搔きつつ、ハハハと戯けて笑った。
その様子に夫人は何処か寂しげに微笑み、感慨深そうに溜息を零した。
「デリカナさんには辛い思いをさせてしまったわ…。ランドルクにも…レヴォルグにも…、ヴィクターには特に…」
その囁きに、彼は気を改めた。
そっと傍らに腰掛け、彼女の言葉に耳を傾けた。
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