クロスオルベの悲劇

1/3
前へ
/114ページ
次へ

クロスオルベの悲劇

 全ては今より遥か二百年前―――。  当時まだ何処の国にも属していなかったカルディナの故郷である西果ての島には、独自の文化を持つエルファ(びと)と呼ばれる先住民が暮らしていた。  彼等は島でのみ採れる星の欠片(ファルファラン)の力を発現させる独自の言葉を持ち、それを密かに使いながら素朴ながら安定した生活を送っていた。  ところがある時、時の帝国皇帝の命を受けた軍隊が突如として島を襲撃―――。島長の娘であった後のシャンティス夫人以外、先住民を皆殺しにした上で島を乗っ取り、島中から星の欠片を根刮ぎ奪い去った。  そして、帝国の皇宮に連れ去られた彼女は、そこで星の欠片の研究開発を強要された。  しかし、乱暴に扱われた所為か星の欠片は皇宮に運ばれた頃には殆どが割れて使い物にならなくなっており、それを知った皇帝は激怒。  腹癒せとばかりに彼女は皇宮の奥に幽閉され、その存在は世間から抹消された。 「…何故、皇帝はエルファの人々を皆殺しに…?貴方方の言語が星の欠片(ファルファラン)の鍵だとすれば、生かしておいた方が得だったのでは…」  ふとした疑問を投じたヴォクシスに、夫人は困ったように嘲笑った。 「それがね、皇帝は私達の言葉が重要だと知らなかったみたいなの。エルファは星の欠片(ファルファラン)を使わずとも兵隊に勝てるくらい強い民族だったから…。きっと怖かったのね」  そう答え、夫人は晴れ渡る空を見上げて言葉を続けた。 「島にも帰れなくなった私はエルファの言葉を書物に纏めたわ…。誰にも語り継がれなくなった言葉は死んでしまうから…。衣食住は保証されていたし、時間も有り余ってたから…」  淡々と語りながらもその目は仄暗さを纏い、その姿にヴォクシスは己を重ねずにはいられなかった。  その孤独と絶望は痛いほど分かる気がした。 「でもね…、それがヴィクターとの出会いが繋がったの…」  不意に視線をこちらに戻した夫人は、穏やかな微笑みを浮かべた。
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加