悲しき歴史に終止符を

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「…クロスオルベ侯爵には敵が多かったんですね」  ヴェルファイアス侯爵からの書類に目を通して、カルディナは肩を落とした。  書類の内容から、謝罪の意向を示している貴族はヴェルファイアス侯爵を筆頭に今日では国事を担う御仁ばかりであった。  彼等はクロスオルベ家に対する公的な謝罪の上で、エルファ島――カルディナの故郷への継続的支援を行いたいとの意思を示していた。 「時代が悪かったんだよ。動乱の時代でなければ、デュアリオンが造られることもクロスオルベの悲劇も起こらなかった筈だからね…」  そんな見解を告げつつ、大佐はいつものように優しい掌で彼女の頭を撫でた。 「日取りは改めて連絡するけど、ハインブリッツ王家が主体となって諸々公的な場を設ける予定だ。カルディナにはその心積もりをしておいて欲しい。デビュタントの準備もしないといけないからね…」  そんな連絡に頷いて了解しつつ、カルディナは失くさないようにと侯爵からの手紙を畳んで封筒に仕舞った。  ―――が。 「…ん?デビュタント?」  言葉を咀嚼し、思わず訊き返した。  デビュタントとは正式な社交界デビューのことで、上流階級の社会的な成人式とも言える行事だ。  この国において淑女は十五歳で行うのが主流である。 「え、ちょっと待って。私の?え、やる必要ありますっ?」  己を指差し、カルディナは顔を引き攣らせた。  すると、大佐は小首を傾げて悪戯ににこりと笑った。 「だって、クロスオルベ侯爵家の正統後継者だし僕の養女でしょ?やらなきゃ駄目でしょ」 「だ、駄目って…!デビュタントなんて想定してないんですけど…⁉」 「大丈夫大丈夫。費用は僕等の方で賄うし、ドレスとかの手配はシルビア殿下がやる気満々だから。カルディナは学校でダンスの練習だけしておいてくれれば…」 「簡単に言わないでください!マナーレッスンとか諸々付随して来るの解ってますよね⁉」  次第に声を荒げて慌てふためくカルディナに対して、大佐はあっけらかんと笑うばかり。  一難去ってまた一難―――。  どうにか面倒極まる世界からの逃げ道を探さねばとカルディナは考えを巡らせた。
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