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叙爵
国王陛下に呼び出されたのは、退院のその日のことだった。
最終検査も問題無くやっと日常に戻れると思った矢先、迎えに来た大佐から唐突に王城に行くことを聞かされた。
そして、訳も分からず現地に着いた途端、いつの間にか仕立て直されていた礼装軍服を前に、王室女官長より着替えを命ぜられた。
何がどうしたと聞く間もなく、婦人更衣室に連れて行かれ、あれよあれよと導かれた大扉に緊張が走った。
そこは王城の中央に位置する玉座の間―――、君主との謁見の場である。
案内をしてくれた大佐と共に、足を踏み入れたそこには国王陛下を筆頭に国家の重鎮が勢揃い。
出来れば合わせたくなかった顔も若干数、見受けられる。
(帰りたい…)
ジロリと視線を送る彼等にカルディナは顔を引き攣らせる。
その顔触れと厳粛な空気に、この場が何の集まりであるかを察した。
隣に大佐がいてくれることが、せめてもの救いだった。
「…カルディナ・ド・シャンティス・クロスオルベ、前へ!」
王太子シルビアのメリハリのある声に呼ばれ、カルディナは背筋を伸ばして緋色の絨毯を踏み締めて国王の前へと前進。
着替えの最中に女中より大まかな流れを言い渡されていたので、それを必死に思い出しながら君主の前で跪いた。
その場が静寂に包まれる中、侍従より書簡と煌めく勲章を乗せた表彰盆がシルビアに手渡される。
彼女は堂々とした歩みで国王の傍らに立ち、書簡と勲章を差し出した。
「カルディナ・ド・シャンティス・クロスオルベ。此度の奪還作戦における貴殿の功績を讃え、ここにクロスオルベ家の復権を宣言し、侯爵の位を授与する」
国王自らの宣言に度肝を抜かれた。
てっきり栄誉の勲章を貰うだけかと思っていた。
どういうことだと顔を上げ、思わずシルビアを見た。
「カルディナ…」
小声で名を呼んだ彼女は、表情を崩すことなく視線と首の動きで次の動作を急かす。
問い詰めたいがそんな空気ではなく、取り敢えず、こうなったからには従うしかなかった。
言われていた通りにカルディナは起立して軽く頭を下げる。
国王は手に取った勲章を軍服の胸に付ける傍ら、そっと耳元で囁いた。
「…すまん、止めきれなんだ…、対処は万全を期すから安心なさい…」
そんな詫びの言葉に、何が起きたか勘付いた。
究極兵器デュアリオンを巡る騒動の間、政治の大きな怪物も水面下で密かに動いていたらしい―――。
軽い会釈で応えつつ、胸に光る勲章の重みに今一度姿勢を正した。
最後に侯爵位に関する書簡を受け取り、一礼の上で後方に下がった。
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