西果ての島にて

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 かつて世紀の天才クロスオルベ侯爵の工房であった島の城跡は、丘を上手く利用した強固で複雑な造りをしている。  修理中の大階段を昇り、当時は機械工作室だったと思われる大部屋に案内されたジョルノ中佐は部下達が屯する一角に駆け寄った。 「床の張替え中に発見しまして。頂いていた図面にはありません」  そんな言葉を添えられながら、部下の手によって床に敷かれていたベニヤ板が剥がされる。  その下にあったのは、まるで開けられることを拒むように金属の板と溶接で封鎖された大きな扉だった。  位置的にここは地盤が高くなっていて、この下は直接丘に続いている筈である。  ―――何かヤバいものがある。  無駄に良い勘がそう告げた。 「…開けてみよう」  ゴクリと生唾を呑み、意を決して告げた。  その指示に部下達は待ってましたとばかりに、工具を手に扉の強行開放を開始。  ガチガチに溶接された扉は頑なで、開いたのは作業開始から一時間も後のことだった。 「調査隊、揃ったな?」  集めた士官を確認し、身の危険は承知の上で捜索に乗り出した。  本当は行きたくなかったが、ここで怖気付いたら格好が付かない上、それを大佐に知られたら後が怖い。  ゆっくりと慎重過ぎるほどの足取りで降りて行き、続く通路を隔てる錆びた鉄格子の戸を開く。  最近一度開かれたのか、閂の錆が剥がれていた。 (もしかしてシャンティス少佐は、ここに入ったのか?)  そう考えつつ、再びゴクリと喉を鳴らす。  かつて何かの採掘を行っていたと思われる細かな横道が各所に伸び、ピチョンピチョンと水の音が木霊する通路を足元の石畳と朽ちた松明を頼りに進む。  ものの数分で辿り着いたのは、これまた大きな鉄の扉だった。  一際慎重にそれを押し開け、その先にあった途方もなく広い空間に足を踏み入れる。  壁一面を埋め尽くす書物はまるで図書館のよう―――。  しかし、素人目には全く分からない大きな機械が各所に置かれ、その中央には天井から下がる巨大な鎖に繋がれた、黄金に輝く機械仕掛けの怪物が鎮座していた。 「おいおい…、何だよ、これ…」  苦笑しながら懐中電灯を向け、その全体を確認する。  それは、まさに島の子供達が話していた御伽噺の邪悪な竜だった。 「まさか、これがデュアリオンの由来…?」  そう呟きながら、動かない竜に恐る恐る歩み寄る。  竜は長いことその状態に置かれているらしく、蜘蛛の巣や埃を山のように被っている。  そして、その胸元は心臓を刳り抜かれたようにぽっかりと開いており、未完成であることが窺えた。 「ここ、通信利くか?」  誰となく訊ねながら所有する通信機を確認。  案の定、地下深いらしく圏外だった。 「な、何ですかっ?これ…!」  悲鳴のような声に、皆でびくりと体を揺らした。  振り返れば、青褪めたクーパー中尉が駆け付けていた。 「クーパー中尉、急ぎで地上に上がってハインブリッツ大佐に連絡を頼む。クロスオルベがとんでも無い化け物を創り出してたってな…」  指示を出しつつ、ふと目に付いた手近なテーブルに歩み寄る。  他と比べるとそこだけ埃の堆積量が少なく、綺麗になっていた。 (やっぱり、ここに来ていたのか…)  溜息を零しつつ、テーブルの上に置かれていたカビの生えた数冊の書物を手に取る。  それは眼前に封じられた邪竜の研究資料と設計図面、そして、王国領土を奪還した英雄カルディナ・シャンティスの血筋に関する重大な事実を示したものであった。  そして、それと同刻―――。  王国首都の王城にて、大きな動きが起きていた。
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