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父と娘でワルツを
それは、カルディナのデビュタントとなる夜会が開かれる二週間前の事だった。
元よりその夜会は、王家主催の停戦記念の催しではあったが、その席に帝国皇帝の名代として旧アウディシア公国の公女であったキャスティナ妃が出席することが判明。
これまで姿一つ見せなかった皇帝の寵妃が参列するとあって国内報道陣は挙ってその話題を取り上げた。
「アウディシアって確かフリード・ビジェットの故郷でしたよね?」
ラジオのニュースを聞きながら練習用のヒールに履き替えたカルディナは、隣で革靴の靴紐を結び直す大佐に訊ねた。
今日は本番に向けた予行練習として時間を割いてもらった次第である。
「言ってしまえば、キャスティナ公女はビジェットの真の主人だ。どうやらビジェット本人も付き人として参加するらしい」
「はいっ⁉あいつもっ⁉」
顔を顰めて声を上げたカルディナに、思わず大佐は苦笑い。
誘拐されかけるし戦場で一線交えただけあって最早、天敵扱いである。
「参列者名簿に本名であるフォルクス・ポルシェンテの名前があった。本名を出せるだけ出世したみたいだね…」
そう話しつつ小悪魔的に微笑む横顔に、カルディナは微かに背中が寒くなった。
風の噂で自身の誘拐未遂での尋問に際し、フリードの腕を圧し折ったとの話を聞いている。
悪魔大佐の鱗片が見えた気がしてこれ以上、話題にしてはいけないと口を噤んだ。
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