皇女の自白

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「単刀直入に、こちらの質問に答えなさい」  気を改めて、彼は皇女を問い質した。  大きなリスクを犯してまで彼女がカルディナに接触した理由―――、この二十年続いた戦争で、一度たりとも表舞台に立とうとしなかった当事者が何故、今になって唐突に姿を表し、凶行に及んだのか。  そして何の目的で、この戦争が起きる以前から長年に渡って帝国は王国への攻撃を続けるのか―――…。 「答えなさい。貴様ら帝国の真の目的は何だ?何を欲して、このカローラスの安寧を掻き壊し続ける?帝国からすれば何の脅威にもなり得ない小さなこの国を…、何故これほどに執拗に脅かす?」  身を乗り出し、ヴォクシスは催促するようにテーブルに生身の拳を置いて今一度訊ねた。  長い歴史上を見ても、王国と帝国では国力の差は歴然―――。  隣接する他国の方が断然、価値ある多くの資源を有し、帝国にとって土地の豊かさも広さも王国は魅力があるとは言い難い。  彼等にしてみれば捨て置いても構わない筈の祖国に何故長年、固執するのか―――、その答えを求めた。 「………、本当に脅威にもならないと?」  不意に皇女は俯いていた頭を上げ、不意に嘲笑うかのように微笑んだ。  無知を嗤うような口ぶりに、彼は何っ?と眉間に皺を寄せる。  それに対して、急に姿勢を正したセリカ皇女は、腹を括ったように帝国皇室の人間たる威厳を纏い、迷いを振り切ったように堂々と視線を合わせた。 「機械仕掛けの白の竜(セル・スィオン)、偉大な魂を抱きて天を駆け、選ばれし主の下にいつか帰らん。大地に降りし万物の語り部(シエンティア)、幾星霜の時を紡ぎ、星の歴史を謡い続けん。しかして人の悪しき心、護りの力を闇に染め、天地喰らう者(デュアリオン)を解き放たん…。この語りは貴方方も知っているかと…」  唐突に語り出された文言に、誰もが何事かとざわめく。  それは西果ての島に伝わる星乙女伝説の語り出しであるが、始めの白の竜に関しては聞いていたものの、その先に続きがあるとは知らなかった。 「クロスオルベの秘宝である魂授結晶(セルシオン)、そして万物の語り部(シエンティア)…、それこそが兄ランギーニの所望しているモノです」  意味深な回答に、ざわめきが更に広がる。  混乱する周囲にヴォクシスは静まれとばかりに指先でテーブルを軽快に小突いた。 「明瞭にお答え頂けるかな?」  周囲が静まり返る中、苛立ち混じりに警告する。  回りくどい手は使わせないと鋭い視線で訴える彼に、皇女は毅然とした様相で自白を続けた。 「魂授結晶(セルシオン)万物の語り部(シエンティア)の二つを手にすることが兄が王国への侵攻を続けた理由です。そして、この国の何処かに眠っている筈の究極兵器、天地喰らう者(デュアリオン)を探し出し、その力で歪んだこの世界を今一度、創り直すことこそ帝国皇家サニアスタの悲願…」 「シエンティアとは何です?デュアリオンとは?」  聞き慣れぬ単語に、訝しげにヴォクシスは訊ねた。  けれど―――、それに対して皇女は不意に鼻で笑い、直後、声を上げて滑稽だとばかりに嗤い飛ばした。 「何が可笑しいっ?」  狂ったように腹を抱えて嗤う皇女に、彼は苛立ち混じりに問い掛ける。 「フフッ…、そんなことも知らずに魂授結晶を軍事利用していたとは…!本当に危機感のない国ですね。お知りになりたければ、可愛がっているお嬢さんに聞けば宜しいのでは?彼女こそ、クロスオルベの究極兵器を目覚めさせる最大かつ唯一の鍵なのですから…」  皇女は呆れたように話しながらテーブルに置かれていた冷め切った紅茶のカップを手に取る。  ソーサーに零れた茶の雫が滴る中、それを唇へと傾けた。 「ただし、どうぞお覚悟を…。大いなる力を手にすれば、使いたくなるのが人の(さが)…。欲に目を晦ませ、破滅の道を選ぶかは貴方達次第です」  紅い雫が膝に垂れ、シミを付けるのも気に留めず、そう告げた皇女は不気味なまでに柔らかな笑みを浮かべた。
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