行き付けの喫茶店にて

1/3
前へ
/114ページ
次へ

行き付けの喫茶店にて

 空腹の腹に好物のマカロニグラタンの温かさが染み渡り、抑え切れぬ満面の笑みでその幸せを噛み締める。  夕飯を済ませにやって来たのはヴォクシスと度々利用している喫茶店で、顔馴染になったウェイター達は、連れ立った見慣れぬイケメンの姿にこちらとの関係性を探らんとチラチラ視線を向ける。  そんな視線を気にも止めず、対面するように座る二人は真剣な顔で食事がてらに会話を続けていた。 「…では、ランギーニはアウディシアに来ていたと?」  訝しげに訊ねつつ、ヴォクシスはこんがりと焼けたバケットを千切った。 「恐らくは大公の処刑を確かめに来たのでしょう。当時の状況からして影武者とは考え難いです。話した内容からして処刑場での俺の立ち回りを見ていたようでした」  問いに答えながら、フォルクスは湯気の上がるエッグベネディクトにフォークを入れる。  嫌でも耳に入る話の内容に、この場にいて良いのかと悩みつつ、カルディナはテーブルに置かれた水差しを手に取り、両者のグラスに冷水を注いだ。 「嗚呼、ありがとう」 「水、ありがとうな」  同時に貰った礼の言葉に、思わず愛想笑い。  流石は大人―――、命の奪い合いをした宿敵同士だったというのに、今は同僚のような振る舞いである。 「特務大佐になったのは、正確にはいつ頃?」 「停戦協定締結から五日後です。突然の通達でした。セリカ皇女が失踪したことで、外交の顔として第一皇妃であるキャスティナ殿下を使わざるを得なくなったのが理由です。ランギーニの皇后はソリオン殿下の出産で亡くなって以来、空席ですから…。王国(こちら)に伺うに当たり、表向きは殿下の直属護衛としてですが、秘密裏に皇女の居場所を突き止めろとの司令を受けました」  そう返した彼に、ヴォクシスは食べ終わった食器をウェイターが運び易いよう纏めつつ、物思いに胸ポケットのシガーケースに手を伸ばした。 「申し訳無いけど、煙草良いかな?」  断りを入れつつ、取り出したシガーケースを開く。  フォルクスはカルディナを一瞥した上で自分は大丈夫だと答え、腰ポケットからライターを取り出した。 「ちょっと手洗いに行ってきますね」  そう告げて席を立ったカルディナは、ヴォクシスの横を過ぎ去る間際、手で数字を示した。  後ろ手でいってらっしゃいとばかりに手を振りつつ、ヴォクシスはフォルクスが点けたライターの火に煙草を寄せて煙を蒸かした。
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加