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「………、退席の指示でしたか」
ライターを仕舞いつつ、フォルクスは独り言のように呟いた。
「中々に頭の切れる子でね。部下としても優秀なんだ。君は吸う人かな?」
訊ねつつ、彼へとシガーケースを差し出す。
フォルクスは会釈しながら一本貰い、手早く火を点した。
「単刀直入に聞くけど、ポルシェンテ殿は皇帝が探し求めている万物の語り部と天地喰らう者について、どのくらい知っているのかな?」
その問いに、彼は度肝を抜かれたような顔をした。
「何処で知ったんです?帝国でも極一部しか知り得ない存在です」
「まあ…、俗に言う身内から。頑なに詳細を教えてくれなくてね。取り敢えず、在り処を突き止めて陸軍側で保護管理してるけど、ランギーニが何故にそれらに固執するかが解らなくてね…」
煙を吐きながら訊ね返したフォルクスに、ヴォクシスは言葉を濁しながらも答えた。
革命に際して信頼を得る為、セリカ皇女を拘束していることなど、彼にはいくつかこちらの内情を明かしている。
故にそれだけ言えば、十分だった。
「………、シエンティアとはクロスオルベ家の末裔で、デュアリオンはその血筋のみが起動できる魂授結晶を利用した究極兵器だと聞かされています。昇進後の謁見で、ランギーニから皇女の捜索と同時にデュアリオンの居場所を突き止めよとの勅令を受けました」
思わぬ返答に、ヴォクシスは口に寄せた煙草の手を止めた。
「皇帝はデュアリオンの在り処を知らないということかい?こちらとしては既に皇帝には勘付かれているとばかり…」
灰皿をテーブルの中央に置き直したヴォクシスは煙草の灰を指で弾き、物思いに伸び始めた髭を擦った。
考え直してみれば、確かに不可解な点は他にもある。
カルディナ含む西果ての島民を苦しめた前任駐屯兵団長は、帝国と癒着して魂授結晶の掌握を目論んでいた。
恐らくは万物の語り部や天地喰らう者についても聞き及んでいた筈である。
しかし、その存在を得るに重要なシャンティスの名を継ぐ人間には特別な危害を加えた様子はなく、万物の語り部そのものであるカルディナの存在も認識していない様子であった。
彼女自身と出会った時も、名を聞くまでクロスオルベ侯爵家の直系子孫だと気付かず、巨躯を有する機械竜セルシオンも強盗事件が起こるまで軍には気付かれなかった。
身を守る為にシャンティス家の人間が、一連の内容を掩蔽していたとしても、あまりにも巧妙―――。
考えに耽る彼に、フォルクスは細く煙を吐いた。
「もしかしたら、密かな協力者がいるのかも知れませんね。クロスオルベは優れた家臣に恵まれていたと聞いています。今尚、主を守るために動いている者達がいるとすれば…」
「成程。調べる価値があるかも知れないねぇ…」
指先にジリジリと熱が迫る煙草を消し潰し、ヴォクシスはその考えに賛同した。
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