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秘されてきた物
気付けば秋の風が木の葉を揺らし、麦畑は再び野を緑に染め始めていた。
無事に復帰したカルディナの学校生活は丁度、新学期が始まった事もあって戦地から帰って来たことに対するざわめきは薄く、思ったよりも順調だった。
クラス替えでクラスメートが何人も変わって寂しくはあったけれど、新しい友達が増えるのは楽しいものだった。
「え、じゃあまだ軍には属しているの?」
お昼ご飯を取りながら新たに仲良くなった子から、そんな驚きの声が上がった。
以前からの友達もそれには驚いていて、カルディナは思わず苦笑した。
「元々招聘されて王都に来たからさ…。ヴォクシス大佐が養父になってるのもあって当分、離してくれそうにないんだよねぇ…」
サンドイッチを齧りつつ、自分の身の上の面倒臭さに渋い顔をした。
停戦協定締結から半月が経ったが、未だに王国軍は戦後処理の為、各所てんてこ舞いの日々である。
大佐も参謀本部に戻ってから多忙なようで、相変わらず体調を気に掛ける連絡はあるが、直接会いに来ることは殆ど無くなった。
既に王城に帰館している筈のシルビアもスペンシア少将の葬儀以降、何の連絡もない。
例の厄介そうな重い話とやらを聞かずに済むなら越したことはないが―――。
「ねえ、カルディナ」
改まったように友達は呼び掛け、何処か期待に満ちた視線が集まる。
思わずヒクッと顔が引き攣った。
「ヴォクシス様とは今どんなご関係なの?進展は?」
「だぁから只の身元引受人!」
思わず、怒り混じりに声を荒らげた。
既に同じ質問を他の友人からも複数回されていて、良い加減にしろと言いたかった。
「ていうか皆、大佐の歳を知った上で言ってるよね?」
有り得ないとばかりに顔を顰めるが、友人達は微笑むばかり。
気を許し過ぎて、友人の前でも名前で呼ぶようになってしまったことを心底後悔した。
「良いじゃない!年の差なんて恋の前には関係無いわ!」
「それにお金持ちで中々の男前!」
「将校さんだから鍛えてらっしゃるし…!」
勝手に盛り上がる友人達を冷めた目で見つつ、ふとポケットの中で鳴った通信機に目を遣る。
噂をすればなんとやら―――、大佐からである。
「はい、シャンティスです…」
そっと席を外して眉間に寄る皺を伸ばしつつ通話に出ると、何やらざわついた音が聞こえてきた。
『お昼時にごめんね。ちょっと聞きたいんだけど、今日の夕方って空いてる?』
単刀直入な確認に、思わず背後を振り返った。
恋バナに飢えた友人達は、キラキラとこちらを見つめている。
「…仕事なら都合付けます」
視線を戻し、溜息混じりに返答。
すると電話の向こうが一段と騒がしくなった。
『良かった。授業が終わった頃に迎えに行くから正門で待って…』
「軍服持って来てないんで一旦帰宅させてください。あと学校には絶対に迎えに来ないでください」
ピシャリと言い放った言葉に、電話の向こうが静まった。
どうやらスピーカー状態にしていたらしい。
『…何かあった?』
「何でもありません…!」
そう怒りを込めて返答したカルディナは乱暴に通信を切り、大きな溜息を零した。
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