邪神の心臓

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「セルシオンの戦闘用ボディの開発時、枢機の息吹(グランブレス)の発案には違和感があった。君のような優しい子が思い付ける機能ではなかったからね…。デュアリオンの存在を聞いて、やっと納得したよ」  何処か悲しげに告げる大佐に、カルディナは嘲笑った。 「隠しても無駄ってことですね…。その研究書をお持ちだということは、もう大佐も知っているのでしょう?この装置は究極兵器デュアリオンの心臓だと…。島の城跡に眠っている本体も、もう見つけているのでしょ?」  腕の中からセルシオンを放り出し、自らが傷付くことも厭わず力任せにその腕を引き離す。  義手の指先に引っ掛け、じわりと血の滲む腕を押さえながら、カルディナはその瞳に敵意を剥き出した。 「…すまない。皇帝の狙いであると分かった以上、唯、眠らせておく訳にはいかなくなった。君の意に反することは重々承知している」  研究書を手近な士官に手渡し、大佐は告げながら足元でオロオロと彼女との間を彷徨うセルシオンを抱き上げる。  その言葉にカルディナの中で固く締めていた何かが千切れた。  怒りを露わに大佐に飛びかかった彼女は、彼の腰元からピストルを奪い取り、その銃口をその場の全員へと差し向けた。 「カルディナ、落ち着くんだ…」  誰もが騒然とする中、冷静に大佐は諭し、ピストルを取り返そうと歩み寄る。 「来ないで!」  その叫びと共に、今度は己へと銃口を向けた。 「邪竜は…っ…デュアリオンは起動させない…!あんなものが目覚めたら世界が壊れてしまう…!魂授結晶(セルシオン)を…私達をこれ以上戦いの道具にはさせない!」  涙ながらに叫び、士官等の静止の声が轟く中、覚悟の上でその引き金を引いた。  けれど、弾は放たれなかった。  何度やってもカチンカチンと虚しい音だけが響いた。 「無駄だ。弾は全て抜いてある」  ポケットから抜き取った弾丸を見せ、大佐は返しなさいと手を差し伸べる。  全てを見透かされ、カルディナは絶望のあまりその場に崩れるように座り込んだ。  項垂れ、狂ったように嗤いながら静かに涙を零した。 「全て話しなさい。君に出来るのはそれだけだ…」  膝を折ってそう諭し、大佐はピストルをその手からそっと抜き取った。
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