西果ての島にて

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西果ての島にて

 鋼を鍛える甲高い音色の傍ら、秋の実りを祝う女達の唄が工場を彩る。  これまで禁じられてきた分、その声は喜びに満ち、島民達の生活が豊かになったことを示していた。  西果ての島に赴任して丸一年。カローラス王国陸軍中佐ジョルノ・ローバーは駐屯兵団長代理として多忙ながら充実した日々を謳歌していた。 「オジしゃーん!」 「ジョルノちゅーさーぁ!」 「ちゅーしゃー!」  舌足らずの言葉で、駆け寄るのは島民の子供達である。  初めこそ警戒されたが、一緒に遊んだり勉強を教えてあげる内に仲良くなった。  記録に残っているだけでも、この島の人間は一世紀以上、国家に歯向かった罪人の末裔というレッテルにより過酷な迫害に遭って来た。  何がきっかけで迫害にまで発展したかは現在調査中ではあるが、長らく虐げられた事により先住民から代々続いていた筈の伝統や文化は殆ど廃れ、今や民謡や言葉訛りとして生活の端々に微かに残るのみである。  これ以上の伝統の荒廃は独自の文化を殺すことになる―――。  そう警鐘を鳴らした本来の駐屯兵団長であるヴォクシス・ハインブリッツ大佐の意向により、着任直後から島民が文化的生活を継続するに必要な整備が急ピッチで整えられた。  本土から掻き集めた物資と人材により、島の生活環境は三ヶ月程度で劇的に改善し、生活が楽になったお陰か少しずつ軍人に対する島民達の態度も柔らかくなってきている次第。  高々一年で根強い遺恨が消える訳がなく、まだ大人達との距離は微妙ではあるが、信用はしてもらえるようになったので大きな進歩と言えよう。 「…なあ、西の海見たか?こりゃ大嵐(デュアリオン)になるぞ…」 「えー!やっと畑も様になってきたのに!」 「収穫前倒すなら助っ人(セルスィオン)頼まねーと?」 「まずは長老(シエンティア)に聞くか?」 「だったら、将校さんに連絡した方が…」  農作業に勤しむ島民等が、方言混じりに何やら真剣に話し合っている。  挨拶がてら声を掛けてみれば、彼等は嵐が来ると教えてくれた。  島の長老に指示を貰おうかと悩んでいるようなので、必要なら軍から人手を割くと伝えると、彼等は何処かホッとしたように礼を言ってくれた。
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