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あるところに王子様がいました
とても素敵な王子様は、みんなの憧れで、小さな頃から周りにはいつも沢山の人がいました
王子様が10になった頃のことです
王子様のサラサラだった髪の毛が、だんだんクルクルしてきました
少ししたら戻るかな?と思っていた髪の毛は、どんどんどんどんクルクルしていきました
沢山の人が、なんとか直そうとしましたが、全く戻りません
そのうち、王子様の周りには、あまり人がいなくなりました
けれども、王子様のクルクルの髪に、色んな鳥が集まって来るようになりました
王子様は嬉しくなりました
王子様が大きくなって、結婚相手を探す年齢になりました
けれども王子様に会うと、クルクルの髪に驚いて、みんな断ってしまいました
王子様は、別に結婚しなくてもいいや
と思いました
けれども王様は、王子様に幸せになって欲しくて、沢山のお見合い相手を見つけました
自分の国だけでなく、近くの国からも、沢山お見合い相手が来ます
でも、みんなクルクル頭に驚いて断ってしまいます
王子様は、
少し疲れたな
と思いました
結婚出来ないことではなくて、沢山の人に必要でないと言われたようで、心が疲れてしまったのです
王子様は思いました
次でお見合いは最後にしよう
最後のお見合い相手は、遠い遠い国のお姫様でした
国の名前だけは聞いたことがあるけど、その国の人に会うのは初めてです
何日もかけて、ようやくお姫様がやって来ました
お姫様は、うつむいているので、よく顔が見えませんでしたが、とても綺麗な髪をしていました
そして、一緒に来た人達は、みんな綺麗な顔をしていました
服は、今まで見たことのないのない服装でしたが、とっても素敵でした
ただ一つ気になることがありました
お姫様以外みんな髪の毛がないのです
王子様は思いました
王族以外髪を伸ばしちゃいけないのかな?
それとも、大きくなったら髪を剃る風習なのかな?
お見合いの時間になりました
けれども、お姫様は相変わらずうつむいたままです
王子様が話しかけても、小さく頷いたり、首を振るだけです
王子様は、自分の国の食べ物や、お花の話をしてみました
けれども、ちっとも楽しそうではありません
王子様は、お姫様の国のことを聞いてみることにしました
君の国の服装はとても素敵だね
それに君の国の人達は、とても綺麗な人ばかりだ
ここに来た人達がたまたまななのかな?それとも君の国の人達はみんなこんなに綺麗なのかな?
王子様がそう言うと、お姫様は驚いた顔で初めて顔を上げました
とても可愛らしい顔に、王子様がドキドキしていると
本当にそう思うのですか?
私の国の者達を見て綺麗だと思うのですか?
小さな小さな声でお姫様が聞いてきました
そう思ったから言ったのに、どうしてそんなこと聞いてくるんだろう?
まるで知らない国だからな
何か失礼なことなのかな?
王子様は考えながらも、自分の思った事を素直に話しました
本当にそう思ったから言ったのですが、何か失礼があったでしょうか?
王子様のその言葉を聞いたお姫様は、急に泣き出してしまいました
驚いた王子様は、何が起きたのかわからず、困ってしまいました
すると、お姫様が泣きながら話し出しました
お姫様の国では何故だか10になる頃から髪が抜け始めるのだと言うのです
それから少しずつ抜け続け、結婚する年頃には、髪のない人がほとんどだと言います
お姫様は、とてもゆっくり抜けているので今はまだあまり気づかないけれど、もう抜け始めていると悲しそうな顔をしました
まだ若いのに髪がない、その異様な姿に、他の国の人達が、お姫様の国に来ることは滅多にないそうです
初めて遠く離れた国にやって来て、初めて自分の国の人達や服装を誉められて、とても嬉しかったのだと泣きながら話してくれました
王子様はほっとしました
何か傷つけてしまったからではなく、嬉しくて泣いていたとわかったからです
けれども王子様には、お姫様の国の話がよくわかりませんでした
髪がなくなるからって、どうして他の国の人達は来なくなってしまったんだろう?
それは、王子様の髪がクルクルになった時、沢山の人達が周りからいなくなったのと、似ている感じもしました
それが何なのか?どうしてなのか?王子様にはわかりません
それよりも、お見合い相手と、こんなに沢山話せたのは初めてで、それがとっても可愛いらしいお姫様だったのが、嬉しくてしょうがなかったのです
王子様は、その気持ちを伝える事にしました
これまで沢山の人達とお見合いをしてきましたが、みんなこのクルクル頭を見ると驚いて、あまり話もせず帰ってしまいました
こんなに話せたのはあなたが初めてです
とても楽しい時間をありがとう
そう伝えると、お姫様は、王子様の頭をじっと見ました
お姫様は、ずっとうつむいていたし、王子様の頭の事を考えてる余裕なんてなかったのです
改めて見ると、確かに見たことのないクルクルとした髪をしていました
でも、どうしてみんな驚いて帰ってしまったのかは、お姫様にはわかりません
けれども、髪の毛が抜けてしまう自分の国に、他の国の人達が来ないのと、少し似ているのかな?と思いました
でも、王子様は全然悲しそうではありませんでした
全然うつむいてもいませんでした
お姫様は聞いてみました
悲しくはないのですか?
自分の髪が嫌いにはなりませんか?
すると王子様が答えます
悲しくはありません
少し疲れてしまうことはありますが
嬉しいことも、楽しいことも、沢山あるからです
クルクル頭になって、沢山の人達が去って行きましたが、残ってくれた人達が居ます
それまで気にもしてなかった、色んな鳥達が、この頭に寄って来るようになりました
こんなに沢山お見合いを断られなければ、こんなに遠くの国の方と会う機会などなかったでしょう
あなたとこうして話す時間を持てたことに感謝します
お姫様は気持ちがいっぱいになりました
なんて前向きな人なんだろう
なんて強い人なんだろう
なんて優しい人なんだろう
王子様から沢山勇気を貰ったお姫様は言いました
私もこうしてお話出来たことに、とても感謝しています
私の髪もやがて全て抜け落ちるでしょう
その前にこうしてお会い出来て良かったです
ありがとうございました
お姫様は、王子様と一緒に居たいと強く思いましたが、それは叶わない夢だと思っていました
髪の毛が抜け落ちる前に、他の国に来てみたかったのです
そして、それはとても大切な思い出になりました
ですが、これで王子様とはお別れです
そう思って去ろうとした時、王子様から信じられない言葉が聞こえてきました
もしもあなたも幸せな時間を過ごせたと思ってくれたのなら、これからも一緒に居てはもらえませんか?
私は兄達が何人も居りますので国に留まる必要はありません
出来ることなら、あなたの国に行ってみたいと思うのですが?
それは、魔法のようでした
願っても叶うはずのない
だから願ってはいけないものだったのです
すぐには信じられません
お姫様は王子様に言います
私のこの髪は全て抜け落ちるのですよ?
私の国はみんな、そのような姿なのですよ?
必死に説明します
けれども王子様の考えは変わりません
あなた達のように綺麗な方達が居るのでしょう?
国中の者達が、その素敵な衣装を身に纏っているのでしょう?
その景色を見てみたいのです
あなたの髪はとても綺麗ですが、髪はなくなっても、あなたの優しい瞳は変わらないでしょう?
あなたが国の者達を思う気持ちも、クルクル頭の者と話す優しい気持ちも変わらないでしょう?
それともやはり、髪が気になりますか?
そう聞かれてお姫様は気付きました
自分が髪を気にするということは、王子様の髪を気にしていると言ってるのと同じことなのだとわかったのです
お姫様は大きく首を振って答えました
いいえ いいえ
髪など気になりません
私の素晴らしい国を、国の者達を、見ていただきたいです
そう言ってお姫様は、嬉しい涙を流しました
クルクル頭の王子様は、遠い遠い国へと行きました
国の人達はとても感謝し、暖かく迎え入れました
王子様もお姫様もとても幸せに暮らしました
そして、王子様とお姫様の子供は、10を過ぎても髪の毛が抜けませんでした
国の人達はとても喜びました
王子様が王様になる頃には、髪の毛が抜けなくなった人が増えて、他の国の人達も来るようになりました
たまにクルクルの髪の毛の子が産まれることがありましたが、それは偉大な王様と同じ髪の毛の子として、とても喜ばれました
おしまい
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