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「それが自分勝手なんだよ!!」
朝は穏やかな空気に包まれていた部屋に怒鳴り声が響く。その日、葵と翔太は夜遅くまで喧嘩をした。葵は大声で泣きながら怒鳴り、翔太はそれを見てうんざりした様子だった。それを見て、葵の怒りはさらに大きくなっていく。
喧嘩をした翌日、翔太は悪いことを言ったと反省したのか話しかけようとしてきたものの、葵は無視して出勤した。そして、翔太が転勤するその日まで話をすることはなかったのだ。
翔太が何を話しかけようとしていたのか、どんな表情をしていたのか、葵は知らない。翔太を見ようとしなかった。翔太の声を聞こうとしなかったためである。
日本から5246キロ離れたシンガポールに旅立ってからも、翔太からは時々電話がかかってくる。しかしそれを全て葵は無視し、仕事に打ち込んでいた。
(来週の授業の準備をしないと……)
翔太のことを考えないよう、意識をしながら葵は廊下を歩く。先程の一年生の授業では翔太のことを一瞬思い出してしまったものの、「大丈夫」と心の中で繰り返した。
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