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寂しい、その思いが葵の心にストンと降りてきた。言葉はいくらでも嘘を並べることはできても、心はそうはいかない。心は素直だ。
「ッ!」
寂しさを誤魔化すため、葵はわざと足音を立ててフローリングの上を歩く。そして翔太と揉めたあの夜を思い出し、心の中を翔太がいない寂しさから翔太に対する怒りでいっぱいにしようとした。
ドアが壊れてしまうのではと思ってしまうほど、乱暴に葵はリビングのドアを開ける。ドアを開けると、翔太が用意してくれた朝ご飯のいい香りが鼻腔を擽る。その香りに釣られて葵のお腹が音を立て、空腹を訴えた。
リビングに置かれている家具は全て、葵と翔太が同棲を始めた時に二人で買い揃えたものだ。木の温もりを感じたい、ソファはこの色がいい、そんなことを話したことを思い出してしまう。
「ああもう!どうせ、すぐ翔太は彼氏から元彼になるんだから。思い出に浸ったって無駄無駄」
時計を見ると、すでに針は十時を過ぎていた。かなり遅い朝ご飯である。翔太と顔を合わせるのが嫌で、ずっと部屋に篭っていたのだ。
顔を合わせるのが嫌だった相手の作った料理を食べるのは少し抵抗があったものの、食材に罪はないと葵は椅子に座る。目の前には、フレンチトーストと鶏ささみのピカタ、ブロッコリーとツナのサラダ、しめじと野菜の和風コンソメスープが並んでいた。
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