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「先生、おはようございます!」
「おはよう!」
翔太が家を出て行ってから数日、葵は何事もなかったかのように学校へと向かい、登校してきた生徒たちと挨拶を交わす。生徒の日常に自分のプライベートをぶつけるわけにはいかない。
葵が教師として働いている学校は、翔太と出会った自分の母校だった。翔太からあの話を聞くまでは、葵はこの中学校で働いていることが嬉しかった。しかし今は複雑な気持ちが葵の胸の中に渦巻いている。
(笑わなきゃ。生徒に不安や不快感を与えちゃダメ!)
乱れそうな自分の心にそう言い聞かせ、葵は大きく深呼吸をする。一限目から今日は授業がある。職員室での会議を終えた後、葵はすぐに準備をして一年生の教室に向かった。
授業開始の合図であるチャイムが鳴り響くと、クラスの級長が「規律」と緊張したように号令をかける。
「礼」
「おはようございます」
生徒たちのどこか眠そうな声が響く。葵はグルリと教室を見回した。欠席している生徒はいないようだ。それを確認してから葵は口を開く。
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