行ってらっしゃい

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「皆さん、おはようございます。今日は世界の国々の気候について勉強していきましょう。教科書は二十三ページを開けてください」 教科書をパラパラと捲る音が響く。葵も生徒と同じように二十三ページを開いた。そこには、様々な国の温度や降水量などのグラフが書かれており、その下に文章が続いている。 「世界の国々には、一年中暑い国もあれば寒い国もあります。また、砂漠など雨がほとんど降らない地域もあれば、たくさん雨が降ったり、時期によって雨が多かったり少なかったりする国もあります」 生徒がわかりやすく、尚且つ退屈をしないように葵は黒板に降水量のグラフなどを貼っていく。アラビア半島、日本、イタリア、アラスカ、シンガポール。 (シンガポール……) その国のグラフを黒板に貼り付ける時、葵の手が一瞬止まってしまった。その一瞬の間に思い出してしまったのは、翔太のことである。 大学卒業後、翔太が入社した会社は国内だけでなく海外にある会社との取り引きも多く、翔太は香港やタイなどによく出張に行っていた。出張先からよく翔太は写真を送ってくれて、その写真のおかげで葵は寂しさを紛らわすことができていた。
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