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堅牢な城壁に囲まれたこの街を出て、山の中に踏み入る。
今回私が受けた依頼、それは【Bランク 黒鉄蟷螂の討伐】だ。
山の奥深くだから街の方へ降りてきて被害をもたらす可能性は限りなく0に近いが、あの近辺は街の特産物である松の木の群生林だ。
下手に暴れられて育て途中の松がダメになられては困る、ということで依頼が出たらしい。
ちなみに黒鉄蟷螂は本来Aランクの依頼らしい。なぜランクダウンしたかと言えば──。
「……そういうことだよなぁ」
数百メートル先に黒鉄蟷螂が佇んでいる。
今は冬……とも言い切れないが、少々肌寒いと言える季節柄。
蟷螂などの虫はこぞって産卵して、それぞれ冬を越すのだろう。
この黒鉄蟷螂も例に漏れずその時期だった。
ランクダウンの理由。それは産卵期のため卵を護りながらの先頭になるから動きが鈍いという点。そして寒さで尚更動きが鈍い点の2つだ。
さっさとこいつのお命を頂戴しよう。そう思い、魔法を展開する。
「≪疾く貫く閃光の氷刃≫」
狙いを定め、氷の刃を放つ。
風を、空気を、そして周りの木々の葉を切り裂き黒鉄蟷螂の首元へ刃が飛び──。
──刹那、カキン、という音と共にパリンッとガラスの割れたような音が私の耳を刺す。
黒鉄蟷螂に一切の傷はついていなかった。
「うっそぉ……」
身震いをし、一目散に私へ駆ける黒鉄蟷螂。
咄嗟に身を翻し、突進を避ける。
私は即座に他の属性の魔法を展開した。
「≪妖し陽炎撃鉄の炎矢≫≪Ⅴ≫」
揺らめく炎の矢を5本携え、マシンガン方式に打ち込む。
急所を外れた4発は虚しく雲散霧消するだけ。だが、残る一本は首元にぐさりと突き刺さる。
外骨格が異常に堅いだけで黒鉄蟷螂自体の耐久は脆いらしい。
魔法の乱射をして仕留めるという『数うちゃ当たる』戦法も頭をよぎるが、魔力をこういうところで無駄に消費していきたくないわけで。
「≪狙い穿つ鋭弩の氷矢≫」
いわば狙撃銃のような銃口を向け、私は放射する。
ひゅっという風切り音がつんざき、黒鉄蟷螂の首を貫く。
獰猛な黒鉄蟷螂はそれを音沙汰に崩れ落ちた。
黒鉄蟷螂の触られたら激昂する部位である目の下を棒でつつくも、一切の反応はなし。
「はぁー……倒した……」
私は地にへたれこんだ。
正直こんな気色悪いのを今後一生相手になどしたくはないが、冒険者としてお金を稼ぐ以上今後も虫と対峙せねばならない。
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ私は冒険者になったことを後悔するのだった。
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