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0、世界唯一の【配信者】
『ほんっとうにごめんなさい!ボクの手違いで……』
「いえいえ、頭を上げてください……」
綺麗な所作で土下座をする少年の姿をした男と、あたふたとする女──あたしのことなのだが──が真っ白い世界、天界にいた。
『面目ないよ……。一応統一神としてミスはあんまりしたくなかったんだけどねぇ』
あはは……、と乾いた笑みを浮かべるのは先まで土下座していた少年。
その正体は、なんと統一神。天界にいる神様の中で一番偉い神様らしい。
そんな神様の前になぜあたしがいるのか。
何より土下座をするまでにことが発展しているのか。
それはあたしの体感で数時間程前に遡る──。
___________________________________
「それじゃあ、今日はこれで終わろうかな!リスナーたち、おつしな~!」
あたしこと神白美楽は配信者だ。
大手動画サイトMetubeで≪thynamoxn≫として活動している。
チャンネル登録者数は鰻登り……とまではいかないが、順調に伸び進み、今や配信者といえばこの人の中であたしの名前が出ることも少からず増えてきている。
「……あ、食材切らしちゃってる」
前日大型オフコラボをあたし主催で行ったせいで食材がない。
時計を見ると、午後6時を少し回った頃合い。
主婦たちの戦争の時間が始まったか否かの境目の時間帯だ。
正直あの人混みの中に行こうとは思わない。
なぜなら──。
「メイク、面倒くさいなぁ……」
あたしは、絶望的な顔だからだ。
いつもマスクで隠しているが、耳の下から頬にかけて血飛沫のような跡がついている。
実際は昔弟を護るために負った火傷なのだが……世間一般から見れば、怖い以外の何物でもない。
しかし、今から買い出しに行かなければ仲のいい配信者仲間の≪Dearler≫が遊びに来る時間に間に合わなくなる。
さすがに客人をがっかりはさせたくない。
覚悟を決め、あたしは買い出しに行くことにした。
案の定、スーパーは主婦の方々やその他の買い出しに来た人々によってごった返していた。
逆にそのまま家にいるよりも遅くなるんじゃないか、と怖くなりつつも、目当てのモノを籠に入れていく。
今日は魚系が特売だったらしく、そのエリアを抜ければ雰囲気はいつも通りだった。
「今日は、シチューにしよっかな」
単純にあたしが食いたいし、と私情をはさみつつ適当に籠に入れていた野菜たちを見やる。
目当て、と言ってもとりあえずどうにでも調理できそうなものたちと思って取ったせいで統一性がかけらもない。
ともかくあたしはシチューの元と生クリームを籠に入れ、レジに並ぶ。
「……野菜、値段たっか」
物価高を続ける現状に心配を覚えつつ、店を出る。
出費は痛いが、それほど痛いかと言われればそうでもない。
Metubeの収益化のおかげでバイトとかせずに、配信一本で生活資金を手に入れれる。
本当に便利な世の中に変わったな、と思っていると。
突然、あたしの上にトラックが降ってきた。
鉄骨とか、人とか、またもや隕石だとか……。そんなものじゃない。
トラックが降ってきたのだ。しかも軽トラとかじゃなく、れっきとした運送用のモノ。
「……え?」
あたしはただ唖然とするばかりだった。
逆に、この状況下で冷静に判断できる人間がいるなら教えてほしいくらいだ。
そんな馬鹿げたことを考えながら、あたしは意識を閉ざした──。
──そして、話は冒頭へと戻る。
『そろそろ100万人も夢じゃなかったのにね……』
「はい……って、なんで神様があたしのチャンネル事情をご存じで?」
神様はあたしの住むような俗世には興味とかはないというイメージなんですが、と付け足す。
すると神様はきょとんとして見せる。
『ん、まぁ……たしかにね。この世界に生きる人類だとかの一人ひとりに興味を持ってちゃ見てられないから
──でも、君は違う』
ビシッとあたしに指をさしてかっこをつけて見せる。
『知らなかっただろうけど、君の配信は天界でも娯楽の一つでね。君の世界なりに言えば……君を“推している”神もこの天界には少なからずいるから』
「え、へぇ……?」
あたしはもう何も考えずに聞き流すことにした。
神様があたしの配信を見ていた……?
まさかまさか、ご冗談を。確かにギリシャ神話とかに出てくる神様の名前でスパチャして来る方はいたけど……って。
「あの、もしかしてなんですけど……ハデスさんとか、ニュクスさんって……」
『あぁ、熱狂的な君のファンだったはずだよ』
「OMG……」
ハデスさんやニュクスさん、その他あたしを推してくださっている神の方々。今まで中二病なんだなーって温かい目で見てしまって申し訳ありませんでしたッッ。
『ところで、君……生きたい?死にたい?』
「……突然ですね。まぁ、生きれるなら生きたいですけど」
『いや、普通なら審判専門の神に魂を送って天国だの輪廻に返すだのするんだけどさ……今回はちょっと異端なケースだからさ』
「異端?」
『ボクの手違いでこっちに来てしまったわけだから、そのまま輪廻に返すのも嫌だったわけ。だから呼び寄せたって感じ』
「はぁ、ということは何か特典があるということですかね」
『話が早くて助かるよ。今回君に用意した特典は……こちらっ』
わざわざ紙吹雪のようなエフェクトまでつけるとは、なんと無駄な労力なのだろう。
ともかく、あたしは画面のようなものに映った文言を読む。
「転、生……?え、あの転生ですか!?」
『そう。さすがに同じ世界で生き返るのはボクの権限でもできないのは申し訳ないけど……記憶を持ったままで新たな人生を始めれるんだ。えっと所謂──』
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