夏の終わり、雨の匂い

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 何度かそれを繰り返しているうちに、手応えを感じた。掴んだ糸は柔らかく、そして氷のように冷たかった。 「紫乃(しの)!」  何度も何度も触れたこの感触を、間違えるわけがない。叫ぶようにして名前を呼んだ。今、オレが掴んでいるのは蜘蛛の糸なんかじゃない。間違いなくアイツの手だ。グッと掴んでいると、自分の手までもが氷のように冷たくなっていくのを感じた。 「幸せになってね」  微かに、紫乃の声が聞こえた。その瞬間、ガクッと全身の力が抜けた。
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