215人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
僕の現実
「佐藤!!まだ企画書出せていないのか!!
早く出せ!3日前に渡したんだぞ!もうできて当然だろう!!大体お前は…」
あぁ、きっと今日も帰れない。昨日と一昨日も帰れなかったし。普通1ヶ月かけるものをたったの3日でできるわけがないだろう。
そんなことをぼんやりと考え、佐藤賢(さとう まさる)は上司からの理不尽な叱責を受ける。
今年で10年目に突入のこのブラック企業。業務の多さはどこにも負けないと思う。怒鳴り散らすだけで自分では何もしないこの上司も、ひたすら無関心を貫き通し、我関せずな社員達もみんな、いつも通り。
学生の頃は夢見てたよ。
立派な会社に入って、お金をたくさん稼いで両親へ親孝行してさ。
彼女も作って、友達ともたくさん遊んで
20代後半から30代前半で結婚したいな、なんて。
でも、実際に働いてみたら、ろくに睡眠も疲れも取れず、会社のために朝から晩までひたすら働いて、彼女どころか友達と遊ぶ暇もない。
これが、僕の現実だ。
「聞いているのか!!
本当にお前は!何年目だよ、まったく。
こんなもので3日もかかるなんて。
一年目からやり直した方がいいんじゃないのか?
今日は提出できるまで帰れると思うなよ。」
「はい。申し訳ありません。」
何度したか分からない謝罪を繰り返し、頭を下げて、部屋を出る。腕時計を確認すると15時だった。
1時間も説教を受けていたのか。
ため息をつき、自分の席へ向かいながら、これからの仕事のことを考え、さらに足取りも重くなる。
「あぁ、もう嫌だ。どこか、別の国に行けたらな。たくさんご飯が食べられて、たくさん眠れる。理不尽な上司なんていなくて、お互い助け合える仲間がいる。そんな場所ってないのかな…。」
ポロリと口から出た言葉に、つい笑ってしまった。現実逃避にも程がある。
この10年間、会社を辞める勇気すらない自分が別の国へ行ったって、今以上に苦労しそうだ。
思考を現実へ戻し、ふらふらと席へ戻ると、
そのあとは黙々と仕事に集中した。
休憩を取る暇もなく、トイレに行く時間さえ惜しかった。
夢中になって作業をし、ふと目の前の壁掛け時計を見れば22時半。
仕事が終わった人たちが小声で挨拶をして、早足で帰っていく。
(ちなみに、上司はとっっくの昔に帰っている。)
そんな中、賢は1人、またパソコンへ向かった。
こんなの無理だ。絶対終わらない。
そう思いながらもひたすらタイピングする。
最初のコメントを投稿しよう!