僕の現実

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僕の現実

「佐藤!!まだ企画書出せていないのか!! 早く出せ!3日前に渡したんだぞ!もうできて当然だろう!!大体お前は…」 あぁ、きっと今日も帰れない。昨日と一昨日も帰れなかったし。普通1ヶ月かけるものをたったの3日でできるわけがないだろう。 そんなことをぼんやりと考え、佐藤賢(さとう まさる)は上司からの理不尽な叱責を受ける。 今年で10年目に突入のこのブラック企業。業務の多さはどこにも負けないと思う。怒鳴り散らすだけで自分では何もしないこの上司も、ひたすら無関心を貫き通し、我関せずな社員達もみんな、いつも通り。 学生の頃は夢見てたよ。 立派な会社に入って、お金をたくさん稼いで両親へ親孝行してさ。 彼女も作って、友達ともたくさん遊んで 20代後半から30代前半で結婚したいな、なんて。 でも、実際に働いてみたら、ろくに睡眠も疲れも取れず、会社のために朝から晩までひたすら働いて、彼女どころか友達と遊ぶ暇もない。 これが、僕の現実だ。   「聞いているのか!! 本当にお前は!何年目だよ、まったく。 こんなもので3日もかかるなんて。 一年目からやり直した方がいいんじゃないのか? 今日は提出できるまで帰れると思うなよ。」 「はい。申し訳ありません。」 何度したか分からない謝罪を繰り返し、頭を下げて、部屋を出る。腕時計を確認すると15時だった。 1時間も説教を受けていたのか。 ため息をつき、自分の席へ向かいながら、これからの仕事のことを考え、さらに足取りも重くなる。 「あぁ、もう嫌だ。どこか、別の国に行けたらな。たくさんご飯が食べられて、たくさん眠れる。理不尽な上司なんていなくて、お互い助け合える仲間がいる。そんな場所ってないのかな…。」 ポロリと口から出た言葉に、つい笑ってしまった。現実逃避にも程がある。 この10年間、会社を辞める勇気すらない自分が別の国へ行ったって、今以上に苦労しそうだ。 思考を現実へ戻し、ふらふらと席へ戻ると、 そのあとは黙々と仕事に集中した。 休憩を取る暇もなく、トイレに行く時間さえ惜しかった。 夢中になって作業をし、ふと目の前の壁掛け時計を見れば22時半。 仕事が終わった人たちが小声で挨拶をして、早足で帰っていく。 (ちなみに、上司はとっっくの昔に帰っている。) そんな中、賢は1人、またパソコンへ向かった。 こんなの無理だ。絶対終わらない。 そう思いながらもひたすらタイピングする。
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