君だけを

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第22章 あおいと僕 彼女はあおいといった。そのあおいと俺はメアドを交換することが出来た。 母が亡くなったのは高校3年生の時、それから僕はずっと自分のことは不幸だと思っていた。留学は行けなかったし、それによって僕の音楽への道は断たれたし、仏壇と常に向かった父との2人暮らしも、やっぱり悲しかった。 でも、それが偶然の再会によって、僕はあの子と急接近をしてしまった。そして彼女との出逢いが、いままで何事にもやる気を無くしていた自分に、明日への活力を復活させてくれ、更に幸福感をも煽った。 僕の母の死という辛い出来ごとも、あおいとの日々が、あおいの存在が、僕に再生のエネルギーをくれた。 一度は断念した音楽への道も、来年には再チャレンジしようという、そういう意志力が再び湧き上がった。 その日、いつものように、僕は原宿の竹下通りに近い改札口であおいを待っていた。 今日はあおいの誕生日、ここから少し歩いた所に美味しいイタリアンのお店がある。方向的には代々木に戻る感じで、横断歩道を渡って竹下通りに入るのではなくて、横断歩道を右に見ながら線路沿いに歩いて行く。 「ここって特別なホームなんでしょ?」 「そうだね。皇室が来た時にこのホームを使うらしいよ。」 「そうなんだ。」 その特別なホームを左手に見ながら、横断歩道を渡って、少し行ったところに今日の目的のお店があった。 その横断歩道・・。その横断歩道を渡る時に、正面から車がこちらに向かって来た。 あれ? 僕たち青信号で渡ってるよね。でも車が前から来てる。車も青信号なんだ。 でも横断歩道で僕たちが渡ってるから、止まるよね。あれ・・止まりそうもない。え・・。 この思考が一瞬でなされた。そして、構わず突っ込んで来る車を避けるために、僕はあおいの肩をこちらへ引き寄せた。 一瞬にして真横にいたあおいの姿が消えた。
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