1分ショート 失恋結婚式

1/1
前へ
/1ページ
次へ
だいぶ変なサービスだなと思ったが、使ってる人は使ってるらしい。しかも効果てきめんだとか。 失恋結婚式のことである。 結婚式をあげる準備を進めているときに、式場の担当者にすすめられた。 1回、失恋してみましょう。 というのがコンセプトらしい。 「永遠の愛を誓いますか?」 「誓います」 結婚式でみんなが口にする言葉だ。 それなのに離婚する人はあとを絶たない。 言葉で誓うことのなんともチープなことか。 だから1回、失恋してしまおうというのだ。 「永遠の愛を誓いますか?」 と言われたあとに、失恋結婚式ははじまる。 目の前がまっくらになり、瞬時に僕は日常生活に戻る。いわゆるバーチャルリアリティというやつだ。 チサトと同棲している、2DKのアパートにいた。 仕事帰りの僕に、チサトは切り出した。 「もうあなたとの生活なんてコリゴリ。人生ムダにしたわ…」 失恋結婚式だとわかっていても、なかなかツラい。 「別れましょう」 チサトはうんざりだという表情をしていた。 「なんでいきなりそんなこと言うんだよ」 僕は泣きそうになっていた。 「いきなりじゃない。ずっと前からそう思っていたの」 チサトの怒りは止まらない。 「家にいるとき、ため息ばかりなの自覚してる?仕事のストレスなのはわかるけど、エアコン使いすぎ電気代どうするんだ?お風呂の水を洗濯機で使え!友だちとばかり会って飲み会代かかりすぎとか、グチグチ細かいことばっかり。家にいるとどんよりした気持ちになるの。私ってダメなんだな、私って存在しちゃいけないんだな。もうツラくなる…。だから離れないといけない」 イヤだイヤだ、別れたくない。 お願いだ、これからも一緒に居てくれ… ハッと気づくと、僕の目の前には神父がいた。 「もう一度、聞きます。永遠の愛を誓いますか?」 僕は涙目になりながら「誓います」と答えた。 チサトのいない生活なんて耐えられない。 僕は永遠の愛を誓った。 結婚してから3年後、僕らは離婚した。 結局、失恋結婚式をしたとしても、かわらない。 永遠の愛なんてないのだ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加