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だいぶ変なサービスだなと思ったが、使ってる人は使ってるらしい。しかも効果てきめんだとか。
失恋結婚式のことである。
結婚式をあげる準備を進めているときに、式場の担当者にすすめられた。
1回、失恋してみましょう。
というのがコンセプトらしい。
「永遠の愛を誓いますか?」
「誓います」
結婚式でみんなが口にする言葉だ。
それなのに離婚する人はあとを絶たない。
言葉で誓うことのなんともチープなことか。
だから1回、失恋してしまおうというのだ。
「永遠の愛を誓いますか?」
と言われたあとに、失恋結婚式ははじまる。
目の前がまっくらになり、瞬時に僕は日常生活に戻る。いわゆるバーチャルリアリティというやつだ。
チサトと同棲している、2DKのアパートにいた。
仕事帰りの僕に、チサトは切り出した。
「もうあなたとの生活なんてコリゴリ。人生ムダにしたわ…」
失恋結婚式だとわかっていても、なかなかツラい。
「別れましょう」
チサトはうんざりだという表情をしていた。
「なんでいきなりそんなこと言うんだよ」
僕は泣きそうになっていた。
「いきなりじゃない。ずっと前からそう思っていたの」
チサトの怒りは止まらない。
「家にいるとき、ため息ばかりなの自覚してる?仕事のストレスなのはわかるけど、エアコン使いすぎ電気代どうするんだ?お風呂の水を洗濯機で使え!友だちとばかり会って飲み会代かかりすぎとか、グチグチ細かいことばっかり。家にいるとどんよりした気持ちになるの。私ってダメなんだな、私って存在しちゃいけないんだな。もうツラくなる…。だから離れないといけない」
イヤだイヤだ、別れたくない。
お願いだ、これからも一緒に居てくれ…
ハッと気づくと、僕の目の前には神父がいた。
「もう一度、聞きます。永遠の愛を誓いますか?」
僕は涙目になりながら「誓います」と答えた。
チサトのいない生活なんて耐えられない。
僕は永遠の愛を誓った。
結婚してから3年後、僕らは離婚した。
結局、失恋結婚式をしたとしても、かわらない。
永遠の愛なんてないのだ。
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