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季報局気象部門天空課
季報局とは、季節を報せる事務局である。季節の変わり目に際しているからか、こちらの役人達も忙しそう。
あなたが最初に辿り着いた部署は、気象部門の天空課。主に空模様を管理し、天候課の役人に天気の指示をする季報局の要だ。
入り口でオロオロしている異形のあなたを見て、声を掛けてくれた役人がいた。
「どうした? 何の用だい?」
あなたが届け物をしに来たことを表示すると、彼はあなたが差し出した紙袋を受け取った。
「ああ、時世さんに貸してたやつだね。ありがとう。君、見掛けない姿をしているね。どこの子だい?」
あなたは、訳あって時世管理局に見学に行っている旨を表示した。
「そうかい。うちも見学していくかい?」
令和ちゃんを呼び戻すように言われている旨も伝えると、彼はフロアを見渡した。
「令和ちゃん来てたなあ。まだ居るかなあ。地球管理連合からの報告を受けてうちも忙しくなってきたところでさあ、僕は今ちょっと手が離せないんだ。あ、僕の名前は旻。よろしく」
旻はそう言って、近くを通りがかった女性に声を掛ける。
「時雨さん、時雨さん。さっき令和ちゃん来てたよねえ?」
「え、はい。さっき」
「まだこの辺に居るかなあ?」
「さあ」
女性はちょっと暗くて塩対応。
「この子が探しててさあ。代わりに探してあげてよ」
「ええ~」
明らかに嫌そう。
「君の稼働はまだ2か月先だろ? 頼んだ頼んだ」
時雨の態度にはお構いなしに、旻は令和ちゃん探しを彼女に押し付けた。
「このお姐さんが探してくれるから、ここらの見学でもしながら待ってな」
時雨は溜息を吐いて、奥の部屋に消えていった。
旻の言葉に疑問を抱いたあなたは、頭上に質問を浮上させた。
「そうだなあ。まず、この地球全体の大まかな自然やその現象は、地球管理連合という国際機関によって管理されているんだ。彼等はこの地球発足当初から存在している、この惑星で最も権威ある組織だよ。氷河期や大陸移動なんてお手の物さ。惑星間交流のプロジェクトなんかも進めてるらしい。あ、でも、それはまだ一般大衆の人間には内緒ね。今の人間はまだ相当なレベルに達していないからさ。だって、宇宙人と聞けば宇宙船で地球に攻め込んでくる悪者だと思い込んでる連中だよ? そんな野蛮な輩に惑星間の交流は早すぎる。即行宇宙戦争さ。穏やかじゃないよね。所詮は地球人なんてまだまだ低能なんだよ」
あなたは「ほへ~」という顔をしてみせる。
「で、彼等から来る指令を基に、僕等が日本の気象や災害を操作しているんだ。大震災とか他部署に凄く顰蹙買うんだけどね。仕事増やすなって言われるから」
あなたは「なるほど~」という顔をしてみせる。
「昨日も指令が来ててさあ、また台風寄越してくるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたよ。酷くない?『熱帯低気圧作ったからよろしく』って感じで連絡来るんだよ? 太平洋高気圧も偏西風もあっちの管轄だから、どうしようもないんだよ。日本に直撃させるしかない時とかもあってさあ。最近は進路迷いがち」
あなたは「そうなんだ~」という顔をしてみせる。
「で、昨日来た指令ってのが、太平洋高気圧の張り出しを緩めますって報告。これでやっと日本を秋にできる!」
あなたは「あれ?」という顔をしてみせる。旻が喜んでいる彼方後ろのデスクに、時雨が何食わぬ顔で座っているからだ。濡れ煎餅をポリポリと食べている。
「おいおいおい、サボってんじゃねえよ」
「秋雨の予定確認してたんですよ」
「で、令和ちゃんは?」
時雨は天井を仰ぐ。
「生物部門にでも行ってるんじゃないですか?」
「……お前、探してないだろ?」
「他部署に顔出すとかダルイですもん」
「冷たい奴!」
「誰が冷や奴」
「言ってないし。その時期はもう終わり。秋を始めるんだから、手伝って手伝って」
あなたの頭上に、「生物部門?」という文字が浮上する。
「うん。向こうの別館だね」
令和ちゃんがどうしてここに来たのか、あなたは尋ねた。
「令和ちゃんってさあ、就任して1年足らずでコロナ禍を迎えちゃったじゃん? だから、平常の秋の経験が浅いんだよ。だから、日本の秋の事を知りたがってて、資料とか借りに来てたね」
「早く秋の気候に移してほしいって嘆いてましたよ。彼女曰く、人間界には令和ちゃんのエアコン調節が下手すぎるせいで連日猛暑だと思っている奴もいるみたいで」
「ハハハ。気温調節はこっちの部署だけど、猛暑になってる原因の一つはフェーン現象だからなあ。あながち時世のせいとも言えるんじゃないか?」
「単なる人間の責任逃れでしょ。時代のせいにしては不遇を嘆くような生き物なんだ、あいつら人間どもは」
生物部門の何課に令和ちゃんが居るのか、あなたは二人に尋ねた。
「何で生物部門に居ると思うんだ?」
「私等んとこに来たみたく、秋の到来に発破をかけに行ったんじゃないですか。植物課か昆虫課にはいるでしょ」
時雨の返事は相も変わらず気の無いものだった。
「そういうことだから。またどこかで会ったら、その時はよろしく」
旻はそう言って手を振った。
あなたはぺこりとお辞儀をし、季報局の別館に向かった。また令和ちゃんの特徴を聞き逃してしまったことを後になって思い出したのだった。
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