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「おい、それ俺が焼けるの待ってたんだよ!」
焼き上がるのをニマニマ見守っていた肉が、正面から伸びた箸に無情にも攫われる。
「え? 食べないからいらないのかと思って。焦げるよ?」
「俺はよく焼いたのが好きなんだ! 第一まだちゃんと焼けてねえだろ? 腹壊すぞ」
「そんなわけない。俺の家ではこれくらいで食べてたもん!」
ムキになる恋人。メシのことになると普段のおっとり可愛い顔なんて吹っ飛ぶんだよな……。
「いや、でも」
「嘘じゃないって! 母ちゃんに訊いたら──」
スマホを取り出した彼を慌てて止める。
「いや、待て待て待て!」
三十過ぎた息子から、いきなり「焼肉はよく焼かなくても大丈夫だよね?」なんて電話掛かって来たら母ちゃんも困るだろ……。
というか情けなくて泣くんじゃねえか!? お前の母ちゃんもう七十近かったよな?
「……わかった。お前が生焼け食うのは好きにしろ。でも俺はしっかり焼きてえんだ! だから陣地決めようぜ」
皿の上のもやしを鉄板の真ん中に一直線に並べる。
「この線のこっちが俺! 絶対取るなよ!」
「ホント食い意地張ってるよね〜」
お前にだけは言われたくねえええ!
~END~
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