椎名くんは終わらない

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 ガッカリした椎名くんは、その足で次にコンビニに向かった。  黄色い看板が目立つ全国的に有名なコンビニだ。  中に入ると、椎名くんは迷わずカウンターに行き、店員に言った。 「すみませーん。ハロハロのしろくまください」 「あ、すみません。ハロハロは9月の中旬で終了しました」 「マジで⁉︎ 終わるの、早くね⁉︎」 「早くないです。普通です。そんなことより肉まんの販売が始まったんですけど、おひとついかがですか?」 「いや、肉まんなんか冬じゃん」 「おでんもあります」 「だからそれ冬だろ⁉︎」 「冬だよ! だから何だよ!」  あーあ。せっかくギリギリまで丁寧に応対してくれていた店員さんからも厳しいツッコミを食らってしまった。 「コンビニは秋ですらない……。もう冬だなんて……」 「そういうもんだよ、椎名くん。もう諦めようよ。夏なんてもうどこにもないんだよ」  肩を落とす椎名くん。どうやって元気づけたらいいか分からない。  すると、椎名くんがふと何か見つけたみたいに顔を上げた。 「あきらめの夏、か。そうだ。ワンチャン、あそこなら……」 「どこ?」 「藤川も行く?」  椎名くんがフニャッと笑って言う。 「茅ヶ崎(ちがさき)」 「サザン、いないよ⁉︎」 「え、なんで⁉︎ 秋だから⁉︎」 「いや、デフォルトでいない!」  茅ヶ崎にフラッと行けばあの人たちに会えると思っているのか。   「それじゃ……本当にもう夏は終わったんだな」  椎名くんはようやく納得したようだ。  でも、その横顔はちょっぴり寂しそうだった。 「ねえ、椎名くん」  私は明るい声を出して、彼の顔を覗き込んだ。 「夏にちゃんとお別れしようか。今夜、私の家においでよ」
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