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「あ」
突然、何かに気がついたような顔つきで、彼氏の椎名くんが呟いた。
彼と付き合い始めて三ヶ月。
彼氏の椎名くんという呼び方もようやく慣れてきた、今日この頃。
季節はすっかり秋に向かっている。
一晩中つけていたクーラーもタイマーで夜中に切り、それでも朝まで眠れるようになったし。
冷蔵庫にたくさん入れておかないと死ぬと思ってたかき氷系のアイスも、食べると鳥肌が立つようになったし。
学校からの帰り道を行く二人の影が少し長くなったような気がするし。
今、目の前に赤とんぼ飛んでたし。
椎名くんもそれを目に留めて「あ」と言ったに違いない。
「赤とんぼかあ。もうすっかり秋だねえ」
しみじみと私が呟いた、その時だった。
「いや、夏はまだ終わっちゃいないだろ?」
自問自答するように、椎名くんが言った。
「もう秋だなんて、俺は認めない!」
「いや、秋だし」
「秋じゃない!」
「どうしたの、椎名くん。季節の変化くらい認めようよ。秋もいい季節じゃん」
椎名くん、そんなに夏が好きだったのか。知らなかった。
友達の期間も含めると結構長い付き合いなのにな。
まあ、椎名くんはいつも真面目な顔をしているくせに常に変なことを考えている人だから、読めないのは仕方がないかもしれない。
それにしても、高校三年生にもなって秋を認めないとはいかがなものか。
そんな季節感のズレた人と今後長くお付き合いしていけるのかどうか不安になる。
そんな私の気持ちも知らず、椎名くんは真顔で言った。
「探せば、まだどこかに夏があるかもしれない。探しに行こう」
「えっ? 夏を探す……?」
ヤバい。
また変なことを言い出したよ、この人。
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