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Ⅰ
ぼおん…ぼおん…
2時を告げる柱時計の音が順の朦朧とした頭に鈍く響いた。
10月にもなると、騒がしい蝉たちも姿を消し、多種多様の秋の虫が透き通る声で歌っている。
再び忍び寄る睡魔を振り払うように起き上がった順は、何をすればいいだろうと思った。
秋休みも半ば過ぎた今日、気づくと6時間も爆睡していた。
白蟻のように時間を食い潰す順に、母は鬱陶しそうな顔を向けてくる。
順は目をつぶってやり過ごす。
順は毎日夢を見る。
今も思い出せるほど鮮明な夢だ。
順は夢の中でだけ、この煩わしい世界を
忘れて生きることができる。
順は立ち上がり、飲み物を欲して冷蔵庫を開ける。
いつも常備してあるレモンジュースのパックを見つけ、グラスに半分ほど注ぐ。
冷えた液体を飲むと、たちまち口の中に
刺激的な酸味が広がり、寝起きの頭がすっきりした。
ふと、小学生の頃も同じものを飲んでいたことを思い出した。
公園から帰ってくると、レモンジュースが必ずテーブルの上に置かれていた。
キンキンに冷えたそれを一気に飲み干すのが気持ちよかった。
あの頃は、どれだけ暑くても外で遊んでいた。
どこにそんな体力があったのだろう。
今では蹴飛ばすだけの石ころや雨上がりの水たまり。BB弾。それらが宝物に思えた日々。
レモンジュースを飲みながら、順は物思いに耽った。
行ってみようか。
今行かなければ、もう二度とあの公園を訪れない気がするから。
順は急いでレモンジュースを飲み干し、玄関に向かった。
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