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小屋に入ると、むっちりとしたソファと それに合う高さの焦げ茶色のテーブルが目に入った。 その奥には暗い廊下が伸びていて、閉まった扉がいくつか見える。 他には小さめの台所と、出目金が悠々と泳ぐ水槽、中央に大きな壺が座っている頑丈そうな机が置かれていた。 青年は暗いな、と呟いて天井から垂れ下がる紐を引っ張る。 途端に部屋が橙色に染まる。 「緑茶、飲む?」 青年に訊かれて喉が乾いていたことに気づき、頷いた。 「すごいな…」 感心しながら菱形の水槽を眺めていると 「それ、森の中で拾ったんだ」 透き通った緑茶をコップにとぽとぽ入れながら青年が答えた。 その水槽は、不安定に見えるのにしっかりと立っていた。 順がありがとう、とコップを貰うと青年は「仕事をします」と言って、丸椅子に座り、机の上に皺のない綺麗な新聞紙を広げた。 順がそばに寄って覗きこむと、青年は一つ一つ丁寧に蝉の死骸を新聞紙の上に並べていた。 こんなに丁寧に蝉の死骸を扱う人はいないだろう。 青年はおもむろにペティナイフを取り出し、蝉の腹を切った。 「え、何やってんの」 思わず声を上げた順を気にせず、黙々と腹の中身を取り出した。 一通り取り出すと、壺の中身を細身の匙ですくい、腹に詰めた。 毒々しい色をしたそれは、生きている細胞のように流動していた。 詰め終わると透明な糸であっという間に蝉の腹を塞いでいく。 青年は何かに取り憑かれたように針を動かす。 思わず見入ってしまう手捌きだった。 死んだものを扱う作業は、見方によって残酷にも神聖なものにも映るのだと順は知った。
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