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「綾──」
「名前はもうやめて。『春野さん』でしょ。……結婚するまではね」
式の後は彼の姓に変えるから。
まあね。いい奴だよ、あんたは。
いい友達だし、……いい男だわ。でも、もう貧乏はうんざりなの。結局今のあんたも、あたしの家と似たり寄ったりの生活だもんね。
だから特別な関係だったのは学生時代まで。最初からそう決めてたのよ。そこまで教える気はないけどさ。
金のない自由と金のある多少の不自由。
前者を選びたい人は好きにすればいい。うちの親もそういうタイプなんでしょ。軽蔑はするけど個人の勝手よ。
それで子どもに恨まれるのも、その選択の結果として受け入れろとは思うけどね。
近いうちに正式に袖を通すこの豪華な衣装程度で、「化ける」なんて笑わせないでよ。
仕事相手として出逢った『夫』になる人と結婚まで漕ぎ着けられたのは、彼が「伴侶に望む」ことを悉く先読みして化けることに力注いだからよ。
そしてこれから先の一生も、「彼の妻」としての役目を全うする。
周囲の全員の目に「いい奥さんでお嫁さん」に映るよう、全力で化け続ける、……化かし続ける。
──あたしは今、生まれて初めて幸せを感じてるのよ。この先、もっともっと幸せになってみせるわ。
~END~
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