『賭け』

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 確かに他人から見れば「夫婦仲良しで、とてもいい人たち」なのかもしれない。他人ならね。  だけどあたしには存在自体が迷惑だったわ。  食べて行くのに精一杯って感じで塾にさえ行けなかったけど、高校は無償化の恩恵で困らなかった。  必死で頑張ったおかげで成績だけは良かったから、大学も特待生で給付奨学金受けられて合間のバイトくらいで十分だったのがせめてもの救いかな。  卒業後はそれなりの大企業に就職して、仕事もそつなくこなしてたわ。  自分の能力と死ぬ思いで重ねた努力で、ようやく手に入れた環境と輝く未来。  絶対に誰にも邪魔なんかさせない。 「あたしはずっと親を恨んで、憎んで来た。だから式にも何とか呼ばずに済むように苦労したのよ」  結婚に際しては、双方の「家」に格差があり過ぎるからなるべく親族や友人は呼ばない方向に誘導して決着した。  式はホテルの人前式。  所謂形式ばった「披露宴」はせずに、あたしたちの同僚を中心に簡単なパーティを開くことになったの。  向こうのお家のどうしても外せない交友関係には、結婚後個別に挨拶に出向くことになったわ。  彼もご両親も人が好いから、なるべくあたしが窮屈な思いしないように心配りしてくれてありがたい限りよ。 「まあさすがに、『お前らが来るなら、結婚相手()に土下座してもいいから式もどうにかして取りやめてもらう。あたしの幸せなんか無視してでも自分たちの要求通したいの?』って言ってやったらやっと諦めたわ。さっさと死んでくれたらいいって心の底から願ってる」  憎悪を剝き出しにするあたしの迫力に押されたのか、彼が息を吞むのが伝わった。 「……いつから?」 「あんた、あたしの話聞いてなかったの!? ずっとよ! 生まれてから今までずっと! 逆に訊きたいんだけど、あたしが『幸せそう』に見えたこと一回でもあったの?」  黙り込む目の前の幼馴染み。  それが答えよ。わかってるくせに本当に馬鹿だね。
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