『OMG! ~Oh My God!~』

14/15

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
 瞳が潤みそうになった自分を叱咤して、亜沙美は何度も心の中で繰り返した台詞を告げた。 「そうです。斉内でお世話になりました佐原 亜沙美です。私用の番号を知りませんので、お仕事中に申し訳ありません。してん、──上坂さん。私、アルバイト辞めたんです。二年からは大学の方に集中しようと思って。それであの、お会いしてお話したいことがあるんです」  この短い台詞の中でさえ矛盾がある。論理破綻している。 「勉強のためにバイトを辞めた」「でも、あなたに逢いたい」  それさえ自覚しているのに止まらない、心。 『……僕と?』  上坂の一人称が、オフィシャルのではなくなっている。  単に不意打ちで驚いただけだとわかってはいるが、亜沙美はそれさえ何故か嬉しかった。 「はい。あの、お忙しいと思いますのでいつでも構いません。合わせます」  沈黙。やはり迷惑だっただろうか。いや、当然か。 「やっぱりいいです。すみません」  そう言って切るべきだろう。そして、すべて忘れていい想い出にする。  けれど、できなかった。 「あの……」 『佐原さん。私は来月で四十になるんだ。君とはダブルスコア、いやそれ以上だよね?』  やはり上坂には伝わっている。亜沙美の想いが。そして、傷つけないように遠回しに断ってくれている、のだろう。  大人なら、敢えて言葉にはしない行間を読んで引くべきだ。わかっているのにできない。もう十九なのに。  ──まだ、十九だから。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加