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「ダブルです! 私もあと二か月で二十歳ですから。そうしたらちょうど倍で、その後は倍率は小さくなる一方なんですよ!」
年齢差は一生涯変わらないけれど。
まるで聞き分けのない子どものような亜沙美の理屈に、電話の向こうで微かに笑う気配がした。
『……わかった。ただし会うだけだよ。平日は大抵遅いから週末でもいいかな? どこかのカフェででも』
「もちろんです。私は本当にいつでもいいので、支店長のご都合のよろしいときに。あの、もしできたら番号か何か──」
『じゃあ、とりあえずメッセージアプリのIDでいいいかな? 言うよ?』
プライベートの連絡先が知りたい、と切り出した亜沙美に、上坂はあっさりと教えてくれた。
「ありがとうございます! それでは、ご都合のいい日時をこちらで送ってくださいますか?」
『そうするよ。……え!? ああ、はい。佐原さん、ちょっと仕事が』
「切ってください!」
メモしたIDを、通話を終えたスマートフォンに登録する。
これで『何か』が始まるなどと本気で期待するほど夢見てはいない。最初で最後でも構わなかった。
来月で四十歳。
つまり誕生日なのだ。何か贈りたい、捨てられてもいいから。
単なる自己満足に過ぎない行為だとしても、この想いを形にしたかった。
彼と二人で逢える。
──もう、それだけでいい。
~END~
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