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「ちょっと(れん)。何よこれ!」 「え? あ、あーっと。ごめん、妹の忘れものだ」  クリアブルーのハート型ピアスを突き付けながらの静加(しずか)の咎めるような声に、俺は咄嗟に用意していた弁解を口にする。  用意周到に考えてはいたものの、これまでの数年間使う機会は一度もなかった。まあ、一応隠してはいたからな。 「……へぇ。蓮の妹さんてまだ高校生じゃなかった? 十歳近く違うって言ってたよね? それでピアスなんてするんだ。そもそもいつ来たのよ。というか、妹さんがこの部屋に来ることなんてあるの?」  軽く首を反らして矢継ぎ早に問い掛けて来る彼女。 「き、去年の夏。ライブ行くのに俺の部屋ホテル代わりにしてさぁ。それが親の条件だったんだよ。今どきの女子高生なんて、学校の外じゃピアスも化粧も平気でしてるって!」  疑っていることを隠しもしない静加に、俺は薄っぺらい『設定』を並べた。 「ふーん、そうなんだ。あたしの高校はピアスなんてとんでもなかったわ」  しどろもどろで我ながら怪しさしかない俺に、静加は冷たい一瞥をくれる。だからって事実を打ち明けるわけにはいかなかった。  いったん始めたからには、せめて最後まで貫き通すのが誠意だろ?
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