『宝物はここに』

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「あれ、(あきら)……?」  リボンの掛かった小さな箱を、無意識に手に取って呟く。  こんなところに隠してあるとは想像もしていなかった。ここは茉希(まき)の部屋だというのに。  吹く風の冷たさに、帰宅するなりコートを出そうと開けたクローゼット。  まだ早いとしてもマフラーとストールもいつでも使えるようにしておこうか、と引き出しの中を確かめて見つけたのは、おそらくは恋人からのプレゼントだった。  金の包装紙とリボンに、柊を模った緑と赤のチャーム。一目でクリスマス用だとわかる。  まだ一月は先だというのに、もう用意してくれていたのか。  彼は今も変わらず実家暮らしで、私室には鍵もなく親が留守中に立ち入るから下手なものは置けない、と嘆いていたのを覚えている。  クローゼットそのものは、衣類のみならずバッグ類の置き場でもあり頻繁に開け閉めする機会があった。  しかしこの引き出しは、主に季節外れの品を仕舞い込んでいるため衣替えの時くらいしか触れることはない。そろそろその時期になって来てはいるのだが、「普段は触らない」というポイントだけが彼の頭には残っていたのだろうか。  学生の頃、朗は茉希への初めてのプレゼントを常にバッグに入れて持ち歩いていたそうで、半ば潰れた箱を泣きそうな顔で渡されたこともあった。 「もっとギリギリでよかったのに」  気にしなくていい、と笑いながら返した茉希に、答えは「俺が待てなかったから買ったんだ」というものだった。  彼とはもう、互いに大学生だった二十歳のころからなので付き合って五年になる。  新鮮味も薄れて来ており、惰性を感じることも多くなっていた。
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