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まるで親友や家族に近い、空気のような存在に近づいてはいても、彼の中から「恋人への気遣い」が完全に消えたことはなかった、とありありと思い出せる。
そうだ。朗にとっては、今でも「二人のクリスマス」が考えるまでもない既定路線なのだろう。
それだけではなく、恋人を喜ばせたいと思ってくれているということなのだ。
あの頃、「茉希のためのプレゼントを、早く用意したかった」と照れながら語っていたのとおそらくは同じ気持ちで。
ふっと息を吐いて、茉希は何事もなかったかのように手にしたままだった箱を引き出しに戻すと、元通り小物で覆い隠した。
茉希は今、何も見なかった。それでいい。
自分もプレゼントを探しに行こう。朗が欲しいものは何だろうか。……すぐには何も浮かばない己が悔しい。
それに今年は思い切って、「クリスマスは外食しようよ!」と誘ってみようか。それとも茉希が手料理を、……いや、二人でなにか作ろうと提案してみてもいいかもしれない。
何もわざわざ慌ただしい中を混んだ店に行くこともない、とクリスマスは茉希の部屋で、デパートで買った料理と少し良いワインで二人きりの時間を過ごすのが恒例になっていた。
それも確かに楽しかった。そう、彼といて幸せだった。いや、今もそれは変わらない。
自然体でいられる相手がどれだけ貴重かは、社会人としてまだ三年とはいえ経験を重ねた茉希にはよくわかる。
当たり前になっていた事実に、今更のように気づいたのだ。
──終わりだと思って、でもあっさり別れようとしなかったのは、あたしが今も朗を好きだからなんだわ。
彼とこれからも共にいたい。違うことをしていても心の何処かで繋がっているような、大切な存在と。
~END~
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