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「わあ、満月! きれい〜」 「満月(フルムーン)じゃないですよ。今日は十六夜(いざよい)月。満月の翌日ですね」  ふと空を見上げて声を上げた葉音(はのん)に、すぐ傍を歩いていた尚登(なおと)が冷静に返して来た。 「お詳しいんですね。天文がお好きなんですか?」 「いいえ、特には。嫌いではありませんが。たまたま知っているだけです」  ごく自然な口調の彼。  博識な人だ、とまず感心した。「知識がある」ことの押し付けがましさを一切感じさせないのは、二十六になる葉音より七歳も年上だからだろうか、とも。  浮ついたところのない生真面目さがかえって好ましかった。  彼と最初に顔を合わせたのは、職場の先輩に強引に連れ出された所謂合同コンパ(合コン)の会場。  向こうも人数合わせで駆り出された口らしく、男性陣の中でも明らかに気持ちが入らない様子で浮いていたのを覚えている。  元だけは取ってさっさと帰りたい。  掘り炬燵式の座敷席の一番端に座って、葉音は誰も手を付けようとはしない料理の皿を自分の前に引き寄せて一人黙々と食べ続けていた。  そんな場違いな女に興味を示す男など、「彼氏・彼女を探すために集まった」メンバー内にいる筈もない。  帰り道、ともに月を眺めた彼を除いては。
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