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「このお店、料理は美味しいですね」  葉音が正面から掛けられた声に顔を上げると、同じようにひたすら食べていたらしい男と視線がぶつかった。  その瞬間まで、存在さえ意識していなかった尚登と。 「そうですね。せめて会費の元くらい取りたいからそれは良かったわ。私、お酒ほとんど飲めませんから」  飲み放題のプランだったが、葉音はノンアルコール飲料ばかり頼んでいた。  これも付き合い。職場での人間関係の潤滑油としての必要悪だ、と割り切ってやって来たに過ぎなかった。  いつも世話になっている先輩の顔を立てるためだけに。  男に愛想を振り撒く必要もないとはいえ、あまりにも色気のない正直過ぎる返しだったと自分でも思う。  しかし彼は引く様子さえ見せずに、平然と話を続けた。 「ああ、僕は多少は飲めますが同じようなものです。こういうの苦手なんですよね。……あなたもそのようにお見受けしますが、男女一人ずつが乗り気でないのなら人数はちょうどよかったんじゃないでしょうか」  まったくその通りだ、と瞠目する。  おそらくは「男女五人ずつ」という最初の取り決めに合わせて、どうにか数を揃えなければ、と双方の幹事が奔走したのだろう。  そして彼自身も、まず間違いなく意向を無視して連行されたのだろうことを確信した。
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