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 その合コンでは、どうやらカップルは成立しなかったようだ。 「まあ話し相手としては合格だったね。落ち着いた人多かったし、『合コン』だと思わなきゃ楽しかったわ」  幹事を務めていた、葉音を誘った先輩女性である奈津美(なつみ)が帰り際にこっそり耳打ちしてきたことで知った。  幹事同士は以前からの知り合いらしい。 「山際(やまぎわ)さん、ずっとあの人と話してたでしょ? 眼鏡の神崎(かんざき)さん。あの人だけ他の男の人と路線が違うんだって。あなたと同じ駅だから一緒に行けば? あたしたちも違う方向だし」  お開きになった帰り道、奈津美に促されて尚登と二人で駅まで歩くことになった。  月を見上げたのはその途中だ。  葉音は現実の男にも恋愛にも、……結婚にも一切興味などなかった。  子どものころから少女漫画が好きで、年齢が上がるにつれて女性向けの恋愛漫画に移行はしたものの「二次元」には変わりがない。  恋に悩み、傷つき、紆余曲折の末に想う相手と結ばれる。  綺麗で可愛らしいキャラクターに感情移入しながら、(きら)びやかな絵で紡がれるドラマティックな世界に浸るのが楽しみだった。
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